鷺の停車場

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香月美夜「本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第四部 貴族院の自称図書委員Ⅲ」

香月美夜の小説「本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~」の第四部「貴族院の自称図書委員Ⅲ」を読みました。

ローゼマインが貴族院に進んでからを描く第4部の第3巻。第2巻に続いて読んでみました。

単行本の表紙裏には、次のような紹介文があります。

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久し振りに神殿へ帰還したローゼマインは神官長らと共に、神殿長としての仕事に明け暮れていた。奉納式や印刷業関連、数多くの面会、書類業務など、日々は慌ただしく過ぎていく。

季節は冬の終わりへ。ローゼマインの周辺は変化が止まらない。早くも一年生が終わろうとする貴族院では、全領地を集めたお茶会を開催する必要に迫られ、最終学年の領主候補生や側近が卒業式を迎える。領地の繁栄のため、自身の婚約話まで浮上。そして、何より懸案だった、下町の面々との別れが近づく……。

見果てぬ夢への「約束」を胸に、立ち止まってはいられないビブリア・ファンタジー

書き下ろしSS×2本、椎名優描き下ろし「四コマ漫画」収録!

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本巻は、プロローグ・エピローグと見出しで区切られた20節からなり、紹介文にあるとおり、巻末に番外編2編、イラストを担当している椎名優による巻末おまけの四コマ漫画が収録されています。各節のおおまかな内容を紹介すると、次のようなあらすじです。

 

プロローグ

貴族院から戻って神官長の手伝いなどを行っているローゼマインを心配するギルは、神官長を信頼するフランやザームに反感を覚えるが、デリアのアドバイスで直接話をしてその意図を理解し、ルッツたちとの契約魔術の解消後は自分がローゼマインと下町を繋いでいくことを決意する。

奉納式と城への帰還

神殿で神官長フェルディナンドの手伝いをするローゼマインは、身体強化のリハビリを怠っていたことを見抜かれ、魔術具を外しての身体強化のリハビリが義務付けられてしまう。奉納式を迎え、フェルディナンドや青色神官たちと魔力を奉納すると、身体強化の魔術が解けて体が動かせなくなる。奉納式を終えたローゼマインは、社交について知識を深めるため、城に帰還する。

お母様とハンデルツェルの印刷業

城の自室に戻ったローゼマインは、まずハルデンツェルの印刷業について話すため、貴族としての実母エルヴィーラに会う。エルヴィーラは、一般に売り出す本と別に、友達に特別に譲るためにフェルディナンドをモデルにした挿絵に差し替えた本も作らせていた。ローゼマインは、貴族院で学生たちが集めたフェルディナンド伝説をローデリヒがまとめた情報を渡す。優秀な文官だったエルヴィーラはローゼマインに他の貴族への接し方についてアドバイスし、フェルディナンドや自分とヴェローニカとの関係を語る。

冬の社交

城で過ごすようになって、養母フロレンツィアや妹シャルロッテと一緒にお茶会に出るローゼマインは、エルヴィーラから情報収集とその整理、文官への支持の出し方などを教えられる。面会予約の選別を終えたフェルディナンドから呼び出されたローゼマインは、秋までの間に工房をどれだけ作れるか質問を受け、先に製紙工房を作ることにし、イルクナーから教師役を出してもらうため、ギーベ・イルクナーと面会する。

吹雪の終わりと呼び出された商人たち

冬の主が現れたとの知らせを受け、成人した騎士たちは討伐に向かう準備に入る。ローゼマインは、出発する騎士たちに祝福を与える。護衛が減るため討伐完了まで北の離れでシャルロッテたちとのんびり過ごすローゼマインは領主ジルヴェスターに神殿での話し合いやギーベ・イルクナーとの面会の結果を記した報告書を出す。騎士たちの帰還後、ジルヴェスターから呼び出されたローゼマインは、報告書の内容についてその趣旨を説明する。数日後、領主に呼ばれたプランタン商会など商人たちと話し合うローゼマインは、この語の印刷業の進め方について話をし、ルッツたちと結んだ契約魔術を解除するサインをする。

わたしが帰る場所

契約魔術が解消された後、ローゼマインたちは、領主主導で製紙業や印刷業を広げられるようにするための新たな契約魔術を交わすが、見習いのルッツの名はなく、これまでの繋がりが切れていくような不安に揺れる。話し合いの後、領主の執務室に呼ばれたローゼマインは、ジルヴェスターやフェルディナンドに、技術供与については自分が金額を決めてギーベから回収する、印刷業や製紙業に関わる文官は自分が育てる、と宣言する。その夜、ルッツや家族に置いていかれる夢を見てうなされ動揺するローゼマインは、翌日、ギーベ・ハンデルツェルとの面会をキャンセルする。フェルディナンドは、ギルにルッツたちを呼び出させ、孤児院長室の隠し部屋にローゼマインを連れていく。久しぶりに思う存分ルッツたちに甘えるローゼマインはすっきりする。

ギーベ・ハンデルツェルとの面会

午後、フェルディナンドに呼ばれたローゼマインは、ギーベ・ハンデルツェルとの面会に向けて打ち合わせを行う。面会の日、グーテンベルクの派遣について話すためギーベ・ハンデルツェルと面会したローゼマインは、ローゼマインが魔力を奉納することで魔力に満ちた小聖杯が届くようになり生産量が上がったと感謝の言葉を受け、ローゼマインがエーレンフェストに留まることを願っていると要望される。

貴族院へ戻る

ジルヴェスターから呼び出されたローゼマインは、ヴィルフリートから届いた報告書を見せられる。そこには本格的な社交シーズンに入った貴族院で他領の領主候補生たちから招待を受けて社交に苦労していること、フレーベルタークのリュティガーからローゼマインの婚約者がいるかを、アーレンスバッハのディートリンデからヴィルフリートの婚約者がいるかを問われたこと、アナスタージウスやエグランティーヌがローゼマインを名指しで誘っていることなどが記されていた。次の土の日に貴族院に戻ることになったローゼマインは、トラウゴットの再教育や貴族院の情報収集などのためにユストクスを貴族院に派遣することを聞かされ、印刷業や製紙業を統括する文官役はエルヴィーラに任せることで話がまとまる。出発を前に、エグランティーヌのために注文していた髪飾りの納品のためトゥーリがベンノに連れられて孤児院長室にやってきて、ローゼマインはトゥーリと視線を交わして笑う。

社交週間の始まり

貴族院に戻ったローゼマインは、ユストクスに見習いたちが印刷業を担う文官として使えるか見極めるよう頼む。寮の多目的ホールに入り、学生たちからエーレンフェストに戻っていた間ローゼマインが不在のため領主候補生との社交が滞っていることを聞かされ、領地対抗戦と卒業式までにやるべきことを次々に並べられたローゼマインは、ユストクスに相談し、まず王子に面会予約を入れた後、エーレンフェスト主催のお茶会の日程を決めて全領地に招待状を出すことにする。アナスタージウスとの面会が翌日になったことを受け、お茶会を4日後に開くことになる。

領地対抗戦の準備とユストクス

翌日、多目的ホールでは、騎士見習いにとってはディッター勝負の場、文官見習いは研究成果の発表の場、側仕え見習いにとっては来賓のもてなしと流行発信の場となる領地対抗戦に向け、それぞれ準備が進められる。そこに、アナスタージウスとの面会に情報収集のため女装して同行するユストクスがやってくる。見事に女装したユストクスは女装の有用性を語るが、母親のリヒャルダの雷が落ちる。その後、ローゼマインは図書館に向かい、シュバルツとヴァイスに魔力を供給する。

王子と面会

面会のためにアナスタージウスの部屋に行ったローゼマインは、王子の雰囲気が大きく変わっていることに驚く。それを指摘すると、アナスタージウスは、ローゼマインのアドバイスを受け、エグランティーヌと2人で話をし、エグランティーヌのエスコートの座を射止めたことを話す。ローゼマインがエグランティーヌのために準備した髪飾りを見せると、アナスタージウスはその出来に満足し、エグランティーヌに捧げる曲も買い取る。面会が終わると、ユストクスはフェルディナンドの心配がよくわかる面会だったとこぼし、側近はかなり気を配る必要がある、側近教育についてもフェルディナンドに進言すると語る。大規模なお茶会までの間に、エグランティーヌからも呼び出しがあり、ローゼマインは髪飾りを見せてつけ方を教えると、エグランティーヌは盗聴防止の魔術具を出して、アナスタージウスのエスコートを受けることができるようになったのはローゼマインのおかげ、王や兄のジギスヴァルド王子、エグランティーヌの祖父に何度も足を運んで言葉を重ねるアナスタージウスの姿が私の心を奪ったのだと打ち明ける。

全領地のお茶会

全領地参加の大規模なお茶会の日、アーレンスバッハのディートリンデを皮切りに、多くの領地の貴族がやってくる。リンシャンでエーレンフェストの側仕えたちの髪が艶々なのは注目を集め、数に限りがあるので自分の友達に配ろうと思うとローゼマインが話すと、ディートリンデがこちらにも寄越せといわんばかりの調子で迫るのに戸惑うが、エグランティーヌがそれを柔らかく咎める。ディートリンデは、ローゼマインは大事な従妹、と以前とは逆のことを言い始めるが、ユストクスのアドバイスで、アーレンスバッハの領主候補生の従妹の地位を買っておくため、リンシャンの小瓶を渡す。リンシャンを配り終えた後、ダンケルフェルガーのハンネローレとようやく話ができたローゼマインは、ハンネローレが本好きだと知って興奮が抑えられなくなり、意識を失ってしまう。

領地対抗戦

意識が戻ると、2日後、領地対抗戦の前日になっていた。ユストクスからの知らせを聞いて診察にやってきたフェルディナンドは、倒れた原因を尋ね、領地対抗戦は領主会議の前哨戦でもある、不確定要素が多く社交に不安のある君は出したくない、と領地対抗戦の欠席を告げられ、寮に引き籠って読書に耽ることになる。領地対抗戦の日、ローゼマインは騎士見習いたちに祝福を与えたのち、寮で本を読みながらのんびり過ごす。

アンゲリカの卒業式

領主対抗戦の翌日に行われる卒業式は引き続き欠席となるが、エグランティーヌの奉納舞やアンゲリカの剣舞が見たいローゼマインがフェルディナンドに尋ねると、映写の魔術具をヒルシュールが持っているはずだという。フェルディナンドがオルドナンツを飛ばすと、ヒルシュールが魔術具と資料の束を抱えて寮に飛び込んでくる。ヒルシュールはフェルディナンドに資料を広げてシュバルツとヴァイスについて話し始め、その議論は翌朝まで続く。卒業式を控え、エックハルトが正装を着てやってきて、アンゲリカのエスコートをすると話す。驚くローゼマインに、ボニファティウスがアンゲリカを弟子に取って以来、身内の誰かと縁付かせたいと考えていたと、その経緯を話す。ローゼマインは映写の魔術具をエックハルトに渡して撮影を頼む。一度戻ってきたエックハルトやアンゲリカたちが領主たちも同席する卒業式に出ていった後、ローゼマインはエックハルトが撮影したアンゲリカの剣舞とエグランティーヌの奉納舞を見るが、音楽を口ずさみながら奉納舞を見ていると、突然指輪から祝福の光が飛び出してしまう。

一年生終了

卒業式から戻ってきたジルヴェスターは、フェルディナンドとローゼマインを自分の部屋に入れ、卒業式でアナスタージウスとエグランティーヌが入場しているときに、祝福の光が飛んできてエグランティーヌを祝福したと聞かされる。原因を知って頭を抱えるジルヴェスターたちは、上位領主から申し込みがある前にローゼマインの婚約を整える必要があると話し、ヴィルフリートと婚約させることを決める。エーレンフェストへの帰還を前に、冬の間の魔力供給について相談するためフェルディナンドと図書館に行ったローゼマインは、シュバルツとヴァイスから滞納者の情報を聞き出し、フェルディナンドの声で督促オルドナンツを飛ばす。

情報の買い取りと魔力圧縮講座

エーレンフェストに戻ったローゼマインは、貴族院で集めた情報を仕分け、ジルヴェスターたちに集めた情報を報告する。アーレンスバッハに領主候補生が2人しかいないとの報告に、エーレンフェストの上層部は衝撃を受ける。集めた情報はその価値によって値段が付けられ、情報料が支払われる。情報料の支払いの次の日、魔力圧縮を教えることになっていたが、フィリーネは仕事を休む。オルドナンツの女性の声の後ろに「お金を返してほしい」とのフィリーネの声が聞こえたことに心配するローゼマインだったが、周囲の説得で領主一族の側近やギーベの一家たちに魔力圧縮を教える。

フィリーネの家庭の事情

フィリーネをどう助けるか悩むローゼマインだったが、ハルトムートのアイデアで、払うお金を間違えたことにして、フィリーネの父カッシークを同行させて、フィリーネの家に向かうと、フィリーネの継母ヨナサーラは、フィリーネに対する悪意をあらわにするが、フィリーネが本当にローゼマインの側近だと知って慌てる。フィリーネはヨナサーラに虐待されている弟コンラートを助けてほしいと懇願する。ローゼマインは、ここままでは死ぬしかないコンラートを灰色神官として神殿で引き取り、フィリーネには城の一室を与えることにする。

コンラートを神殿へ

ローゼマインはレッサーバスにハルトムートとフィリーネ、コンラートを乗せて神殿に向かう。フィリーネがお金を貯めればコンラートを買い取って一緒に過ごすことができると話すローゼマインは、フェルディナンドは、いくら努力してもコンラートはもう貴族には戻れないと聞かされ落ち込むが、フィリーネは貴族同士でなくても一緒に暮らしたいと笑顔を見せる。ローゼマインは同じような目に遭っている貴族の子を救えないかと考えるが、フェルディナンドから止められる。

販売会と反省会

本の販売会を終えたローゼマインは、プランタン商会と反省会を行い、次に印刷する物やハルデンツェルへの出張について話し合うことになっていたが、フェルディナンドとの事前打ち合わせで、これからは文官が神殿に同行するようになる、孤児院長室の隠し部屋が使えるのは今日が最後だと告げられる。ユストクスや側仕えたちと孤児院長室に移動したローゼマインは、マルクやルッツたちと一緒に昼食をとる。ルッツやギルを見て著しい成長を感じるローゼマイン。昼食を終えて打ち合わせに入り、差し出された資料の束の中にこっそり手紙が挟まっているのを確認し、こうした手紙のやりとりも最後になると心が痛む。そして、ローゼマインは、ベンノ、マルク、ルッツ、ダームエル、ギル、フラン、ユストクスを隠し部屋に案内する。

約束

隠し部屋に入ったローゼマインは、ここを使うのは今日が最後だと言われたと切り出し、事情を説明する。心配するルッツは、粘土板を作るのに必死になっていたころにした将来の夢の話をして、こうして会えなくても、オレはお前のために本を作る、この約束はずっと有効だ、とローゼマインを励ます。ルッツたちが帰った後、ユストクスは、気持ちを整理するために神殿長室の隠し部屋に行くことを提案する。隠し部屋でエーファやギュンター、トゥーリが書いた手紙を読むローゼマインは、涙が止まらなくなる。

わたしと神官長

気が付くと、手紙を読んで泣きながら寝ていたローゼマインをフェルディナンド、ユストクス、エックハルトが起こしに来ていた。フェルディナンドは、貴族院で最優秀を取ったローゼマインの頭に手を置いて、頭をぐりんぐりんと振り回して褒める。

エピローグ

ユストクスは、カルステッドやジルヴェスターなど家族は、ローゼマインにとってどような存在かを尋ねていく。その答を聞いて、下町に近いほど重要視されていて、貴族への思い入れが少ないことを不安に思うユストクス。フェルディナンドは、婚約発表で領地がまた動く、言動に気を付けて何かあれば相談するように、とローゼマインに告げる。

 

ここまでが本編。その後に、番外編の書き下ろしが2編。

時の流れと新しい約束

孤児院長室を辞したルッツは、もうローゼマインを支えられるのが自分ではないことを突きつけられるような気分になって唇を噛む。ベンノの指示で、ルッツが顛末を伝えるためにトゥーリを呼びにギルベルタ商会に行くと、ルッツとトゥーリを恋仲だと思って冷やかす同僚たち。プランタン商会でトゥーリは顛末を聞かされるが、わたしたちはずっと取り繕ったやりとりしかしたことがない、隠し部屋が使えなくなったと言われても実感がないと話すトゥーリ。前向きなその言葉を聞いて、ルッツはホッとする。翌日、工房でギルに会うと、寝る前の報告時間にお前たちの情報を混ぜて伝えるくらいはできる、今度はオレが下町とローゼマインを繋ぐと話し、2人に新しい約束ができる。

卒業式と祝福の光

貴族院の卒業式。エグランティーヌは、クラッセンブルクでいずれ結婚で王族に戻る姫として扱われている自分のことを思い、ローゼマインとヴィルフリートの関係を羨ましく思う。アウブは、ローゼマインの噂を聞いて、領主会議で次期アウブの第二夫人として婚約打診をしてみようと話す。そして、アナスタージウスのエスコートで卒業式に入場するエグランティーヌに、祝福の光が降り注ぐ。2人はローゼマインがやったのだと直感するが、エグランティーヌは、これがきっかけで、アナスタージウスが王座を譲り、兄のジギスヴァルドが王座を引き継ぐ最善の道が円滑には進まなくなる予感がする。

 

さらに、著者によるあとがきの後に、「毎度おなじみ 巻末おまけ」(漫画:しいなゆう)「ゆるっとふわっと日常家族」と題して、「イヤガラセ」「こっちの常識非常識」「高要求」の3本の四コマ漫画が収録されています。

 

貴族院の1年生を終え、ルッツたちと結んだ契約魔術の解消や隠し部屋での面会の終了など、これまで大事にしてきた下町とのつながりが少しずつ薄くなって、情緒不安定になるローゼマインですが、一方で、印刷業はさらに発展し、また、その存在は他領からも注目されるようになってきます。次巻以降はさらにいろんなことが起きるのでしょう。