鷺の停車場

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新堂冬樹「誰よりもつよく抱きしめて」

新堂冬樹「誰よりもつよく抱きしめて」を読みました。

2004年11月から2005年6月にかけて雑誌「女性自身」に連載され、2005年9月に単行本が刊行され、2008年10月に光文社文庫で文庫化された作品。

先日、本作を原作に実写映画化した作品「誰よりもつよく抱きしめて」をスクリーンで観て、かなり良かったので、原作も読んでみようと思い、手に取ってみました。

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文庫本の背表紙には、次のような紹介文が掲載されています。

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児童書専門店「夢の扉」を営む水島月菜は、児童文学作家の良城と結婚して八年になる。優しく思いやりのある夫だが、強迫性障害を患っていて、愛する妻に触れることもできなかった。店の隣のバーで働く年下の青年と知り合い、次第に心惹かれていく月菜。しかし、彼もまた誰にも言えない秘密を抱えていた。揺れ動く男女の心の機微を濃やかに描く、究極の純愛小説。

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主な登場人物は、次のとおりです。

  • 水島 月菜:33歳。児童書専門店「夢の扉」の店主。

  • 水島 良城:月菜の夫で児童文学作家。強迫性障害による潔癖症で、月菜に手すら触れることができなくなってしまっている。
  • 木内 早智子:月菜の高校時代からの友人。二度の離婚経験がある。弁護士事務所に勤めている。

  • 榎 克麻:月菜が知り合った28歳の男性。同性愛者である秘密を抱えている。
  • 佐倉医師:良城が強迫性障害の治療を受けている「佐倉クリニック」の医師。

  • 村山 千春:良城が佐倉クリニックで知り合った、同様の症状を抱える若い女性。
  • 麻耶:榎の元恋人。

  • 高波:後に早智子が結婚する男性。早智子との間に息子・克彦がいる。

 

本編は、数字の見出しが付された23節と終章で構成されています。ネタバレになりますが、おおまかなあらすじについて、それぞれの節ごとに概要を簡単に紹介すると、次のようなもの。

[1]

結婚生活8年目を迎える月菜は、渋谷で経営する児童書専門店「夢の扉」の閉店後、桜新町の我が家に午後9時すぎに帰宅する。夫の良城は温かく出迎え、仲睦まじく夕食を食べるが、良城は、結婚生活1根目に起こったある出来事をきっかけに、触れる物すべてに細菌が付着しているような強迫観念に囚われる不潔潔癖症と、眼につく物が少しでも不完全な形をしていると元通りにしないと気が済まない不完全潔癖症に苦しめられており、長年セックスレスとなっていた。

[2]

月菜は、ここ数か月間、良城のデビュー作であり、初めて出会うきっかけでもある『空をしらないモジャ』をいつも持ち歩いていた。物語の主人公であるモジャと良城が重なって見えるからだった。そんなある日、「夢の扉」に児童書専門店には不似合いな20代と思しき青年がやってきて『空をしらないモジャ』を買って店をあとにするが、青年はカウンターに携帯電話を置き忘れてしまっていた。その携帯電話に着信が入り、月菜がその電話に出ると、麻耶と名乗る若い女性の声で、青年に別れを告げるのだった。

[3]

その夜、その携帯電話を家に持ち帰った月菜が良城に店での出来事を話すが、その携帯電話に公衆電話からの着信が入る。月菜が電話に出ると、その携帯電話を店に置き忘れた青年からの電話で、翌日に店に取りに行くと伝える。

[4]

翌日、「夢の扉」に携帯電話を受け取りにやってきた青年は、店の隣のビルにあるバー『フリータイム』でバーテンダーをしていると話し、お礼にお酒をご馳走させてほしいと誘う。時間がないと断ろうとした月菜だったが、麻耶に電話を掛けたら気持ちは前日伝えたと切られてしまったので話を聞きたいと言われ、断れなくなる。

[5]

青年と『フリータイム』に行った月菜だが、良城との触れ合いがない生活が長いせいで、何気なく青年と接触するだけで躰が過剰反応してしまう。麻耶からの電話の内容を伝えると、青年は、女の人を好きになった経験がない、男性しか愛せない、と打ち明ける。その話を聞く月菜は、青年も普通でない何かを抱えているのかもしれないと感じ、親近感を抱く。

[6]

7時半には店を出るつもりだったが、青年の話に引き込まれ、共感した月菜は、グラスを重ね、店を出たときには9時を過ぎていた。帰宅した月菜は、いつもと同じように温かく出迎え、どうして遅くなったか触れようとしない良城の態度がもどかしく、どうして理由を訊かないの?と言ってしまう。

なんて残酷なことを言ってしまったのだろうと後悔し、寝室に入った月菜は、結婚して半年が経ったころ、子供ができない原因が自分だと分かったことで、良城が潔癖症を発症したこと、そして、月菜の放任で症状がエスカレートしてしまったことを思い返し、一緒に森の出口を探そうと思う。

[7]

2日後、月菜は、良城が自主的に通っているカウンセリングに初めて一緒に行くことに決め、その間の店番をお願いをするため、旧友の早智子に会う。夫婦ならセックスも呼吸と同じ、とあっけらかんと言う早智子の話を聞いているうちに、月菜は、青年が麻耶という女性と肉体関係を結んでいたのだろうか、とふと頭に浮かび、慌ててその思考を打ち消す。

[8]

その昼すぎ、良城がカウンセリングを受けている西新宿の佐倉クリニックに向かった月菜がクリニックの待合室に着くと、良城が歳の頃24~5の美しい女性・千春の隣に座って話していた。良城が千春に向けた優しい笑顔を見て、突然口の中が乾く異変に襲われ、疎外感を感じた月菜は、思わず2人の会話の邪魔に入り、夫婦仲のよさをみせつけようとしてしまい、良城をカウンセリング室に促しながら、その心は暗く沈む。

[9]

良城についてカウンセリング室に入った月菜だったが、良城と千春の関係が気になってしまい、佐倉医師の話に集中できない。カウンセリングを終えた佐倉医師は、月菜だけを呼び止め、潔癖症は時間が経てば何とかなるという病ではない、もう発症から7年が経っており、治すためにショック療法を行う、そのためには家庭の協力が必要、良城の心の支えになってほしいと話す。待合室に戻ると、元気のない良城に千春が励ましの声をかけていた。月菜は、他の女性に弱い部分をみせる良城が許せず、そのままクリニックを出ていき、良城は慌ててその後を追う。

良城と別れて店に戻ると、店番をしていた早智子から、榎克麻という男性が訪ねてきて、電話をくださいと、電話番号を残していったことを聞かされる。先の青年だと思い当たった月菜だが、もはや青年に連絡する理由も義務もないと思い、そのメモを屑箱に捨てる。

佐倉医師の言葉が浮かんで、良城に電話した月菜だったが、溢れ出す感情の流れを塞き止めることができず、なぜ千春だけ肩入れするのか責めてしまう。電話を終えた月菜に、我慢してまで一緒にいてほしいとは思わない、と言った良城の言葉が蘇る。

屑箱からメモを拾い上げて、克麻に電話をかけた月菜は、翌日のお昼休みに食事に誘われ、それを受ける月菜の口もとは綻ぶのだった。

[10]

翌日の昼、月菜が克麻と会うと、克麻は、セックスってどんな感じなのかと突然尋ね、これまで女性とセックスをしたことはなく、麻耶と出会う前に付き合っていた恋人とは肉体関係もあったことを明かす。それを聞いた月菜は、最初の質問に、実はよくわからないと答えるが、思わず、夫とは7年間セックスレスであることを口にしてしまい、自分自身で驚く。

[11]

翌日、良城との冷戦状態が続く中、月菜は克麻にセックスレスであることを打ち明けたことに良心の呵責を感じていた。その日、山梨から同窓会のために東京に出てきた良城の母親が、2人の家を訪ねてくる。義母は、子供ができないのは月菜のせいだと思って月菜を責めるが、その言葉に良城がテーブルを叩いて言葉を荒げて月菜を擁護し、月菜の心は久しぶりに満たされる。その夜、冷戦状態も解消して仲直りした2人がワインを飲んでいると、良城の携帯電話に着信が入る。月菜が代わりに電話に出ると、その相手は千春だった。

[12]

翌日、月菜が「夢の扉」を閉めた直後、早智子が店の前でバッタリ会ったと、克麻を連れて店にやってくる。伝票を整理した後、3人は店内で飲むが、早智子は、月菜と克麻を二人きりにして先に帰ってしまう。2人で話しているうちに、克麻は、セックスの感じをしらない者同士、ふたりで試してみませんか?と言い出し、月菜は一瞬すべての思考が停止するが、私がセックスに飢えている女だと思って近づいてきたわけ?と激昂し、帰って、と克麻を追い出す。

[13]

帰宅すると、良城は打ち合わせで出版社に出かけていた。月菜は、克麻との出来事、そして良城と初めて結ばれた夜のことを思い出し、嗚咽する。そこに、早智子から電話がかかってきて、自分が帰った後にどうなったのか尋ねた早智子は、克麻が『フリータイム』をクビになったことを明かす。

出版社の打合せで編集長にふたり目の子供が生まれたと聞いて帰ってきた良城は、高齢出産をどう思う?と月菜に尋ね、寝室に誘う。何度この瞬間を夢にみたことだろう、と顔が上気した月菜は、シャワーを浴びて良城のベッドに入るが、良城が決意を固めて月菜に触れようと必死に努力しても、結局うまくいかない。

[14]

翌日、前日の夜のことを思い出し、良城の体は明らかに月菜を拒絶していたこと、自分がもはや胸をときめかせる相手でも、安らぎの対象でもなくなっていることを実感した月菜は、重い足取りで店から帰宅する。すると、家の中には、良城と千春が笑い声を立てていた。千春、姉の家の近所だと聞いたのでご挨拶だけしよう伺った、と弁解するが、許せない月菜は、厳しい言葉を投げるが、千春を擁護しようとする良城を見て、脳の奥でなにかが弾け、月菜は家を飛び出してしまう。駅の方に歩き出した月菜の背後から車のクラクションが鳴り、恐怖で月菜は駆け出すが、その車の男は、克麻だった。

[15]

克麻は、昨日のことを謝りたくて、早智子に住所を聞いてやってきたと話す。月菜が、もうこれっきりにしましょう、と言うと、克麻も、自分からは連絡しないし、姿を荒らさないと約束するが、一番最初に月菜と会っていたら女性を愛せるようになっていたかもしれないとの克麻の言葉に、月菜は息を呑む。克麻と別れて踵を返すと、エントランスの方から、良城が姿を現し、それを追って千春もやってくる。それを見る月菜は、情けなさに涙がこみ上げ、孤独感に襲われて立ち尽くすが、後ろから克麻から手首を摑まれて抱き寄せられる。克麻は月菜にキスをして、車に戻り、去っていくが、それを見ていた良城は、月菜に部屋に戻るよう言い、千春を駅まで送っていく。

[16]

早智子の家に転がり込んだ月菜は、話を聞きたがる早智子に事情を説明する。月菜の話を聞いた早智子は、良城と別れて克麻とくっつくよう勧め、克麻が良城の前で月菜を抱き寄せてキスをしたのは、月菜と良城の仲を元に戻そうとしたから、月菜のことをほんとうに思っているのは克麻の方かもしれないと指摘するが、月菜は良城とやり直すことを決め、家に帰る。

家に帰ると、良城は、月菜には最初から怒ってなんていないが、自分自身だけは許せないと言い、謝ろうとする月菜を遮って、別れよう、と切り出し、僕では幸せにすることができない、僕がそっちの世界に戻れないのなら、いまの世界に止まるしかない、と話す。引き留めようとする月菜は、私ひとりでどうやって生きていけばいいの!?と投げかけるが、良城は、君は空を飛べばいい、と言って去っていく。

良城が出て行った後の家で、ワインボトルを開けた月菜は、酒に溺れるように飲み進め、酔った勢いで克麻に電話を掛けると、心配した克麻が様子を見にやってくる。月菜は、セックスしましょう、と勢いで誘い、挑発的な月菜の物言いに、克麻もそれに応じるが、躰が強張る月菜に、適当な男を相手にして現実から逃避しているようにしか見えない、と指摘し、月菜の酔いは一気に冷める。そして克麻は、僕ならあなたを幸せにできます、また会いに来ます、と言って返っていく。

そして、良城を探して訪ねてきた千春は、良城を裏切った月菜を責め、良城は自分が支える、と良城と別れるよう求める。

[17]

良城に別れを告げられてから、店にも出ず、家にこもっていた月菜は、話があるとの良城の電話で、原宿の喫茶店で良城と会う。私を許せないのならわかるが、自分自身を許せないから別れるだなんて納得できないと言う月菜に、良城は、こんなんじゃ君を不幸にするばかり、ずっと前から考えていたと言い、月菜に離婚届を渡し、先に店を出て行く。離婚届の署名欄に書かれた名前をみて、無意識に克麻に電話をかけた月菜に、克麻は、来週からパリに住む知り合いのところで働くことになった、一緒に来てくれないかと誘う。

[18]

そして、月菜がいた喫茶店にやってきた克麻は、車に月菜を乗せ、自分のマンションに連れて行く。車の中で、あるべき姿でいれば、哀しんでも苦しんでも、寂しくはならないと言う克麻の言葉に、月菜は無言で頷き、マンションに着いた後、後戻りできないよう自分を追い込むため、早智子に電話をかけ、克麻とパリに行くと伝える。

[19]

克麻のマンションに来た翌日、優柔不断でいまだに夫のことを忘れられない自分のことを愛してくれる克麻の純粋な瞳に、月菜は堪らず視線を逸らしてしまうが、パリ行きのこと、克麻と同じ部屋で夜を明かし、向かい合ってともに朝食を摂っているいることに、夢を見ているのではないかと錯覚しそうになる。克麻が「夢の扉」が続けられなくなるのは心残りだと言うのを聞いて、店のことがすっかり頭から抜け落ちていた月菜は、良城との思い出が多すぎる「夢の扉」は、手放すつもりであることを話すと、そこに克麻あての荷物が届く。それを受け取りに出た月菜が玄関のドアを開けると、配達員の背後に、顔を強張らせた良城が立ち尽くしていた。

[20]

早智子に聞いてやってきた良城を、克麻は、きちんと話がしたいと家に上がらせる。そして、克麻は、自分は月菜と一夜をともにした、自分と月菜は愛し合っていると言い、それを聞いた良城は凍りついたように顔色を失う。克麻の言葉に、月菜は、克麻を好きではないの?好きでないのならどうしてここにいるの?どうしてパリに行くの?と自責の念に襲われる。良城は、君の言うとおりだ、と言って力なく笑い、立ち上がって出て行こうとする。もう二度と会えないような気がした月菜が心の中で呼びかけると、良城は足を止め、克麻と愛し合っているのは本当のことなのか?と尋ねる。月菜は、あなたを今でも愛している、と思いながら、それを口に出すことはできなかった。良城が出て行った後、月菜は喪失感に囚われ、頭の中は深い闇に覆われるが、明るく振る舞って離婚届を出して署名する。克麻が気を使って買い物のふりをして出て行くと、堰を切ったように涙が溢れ出す。

[21]

それから5日が過ぎ、パリ行きの前日。月菜は売りに出した「夢の扉」で、離婚届を渡すために良城と待ち合わせをしていた。早智子は、未練があるならパリ行きは止めた方がいい、克麻も月菜も不幸になる、と真剣な眼差しで忠告し、良城がやってくると、店を後にする。良城と二人きりになった月菜に、「夢の扉」での良城との思い出が蘇る。離婚届を受け取り、店を出て行こうとする良城だったが、外は激しい雨になっており、傘を持っていない良城を、月菜は店にあった傘を差して駅まで送る。しかし、強風によろめいてバランスを崩した拍子に、月菜が履いていた靴が脱げ、水溜まりに沈んでしまう。すると、良城は傘から飛び出し、雨が打ち付けるアスファルトに四つん這いになり、水溜まりに手を突っ込んで靴を拾い上げる。不衛生な水溜まりに手を突っ込んだ良城の行動に、月菜の胸は苦しいほどに締めつけられ、嗚咽を漏らす。そして、良城が包容力という力強く大きな愛で自分を包んでくれていたことに気づくが、今さら気づいても遅かった。良城は月菜に最後の別れを告げて雨の中を駆け出していくが、その先には千春がいた。自分に任せてください、と言う千春に月菜は、彼女なら夫を支えるいくことができるだろうと感じ、良城さんをよろしくお願いします、と涙を流しながら、深々と頭を下げるのだった。

[22]

千春とともに遠ざかる良城の背中を見送った月菜は、抜け殻のようになり、重い足取りで克麻のマンションに戻る。エントランスで出迎えた克麻にエスコートされて部屋に入ると、荷物を発送してがらんとしていた。月菜は胸の奥の気持ちをかき消すようにパリに行った後のことについて饒舌に話すが、月菜にそんな余裕がないことを見抜いていた克麻は、自分の携帯電話を差し出し、パリ行きのフライトは午後3時、12時に「夢の扉」で待ち合わせをしよう、パリ行きをやめるなら携帯電話を返してほしい、気持ちが変わらないのならそのまま空港に行こう、と提案する。どうして急にそんな気になったのか月菜が尋ねると、自分の気持ちは変わらないが、それは月菜の気持ちを無視したエゴだと気づいた、だから時間を巻き戻して、もう一度振り出しからやり直そうと思ったと話す。

どちらを選択するかを一睡もせずに考えた月菜は、翌日の出発の日、「夢の扉」で、やってきた克麻に携帯電話を返す。期待していたのとは違う結論に、克麻は一瞬声を失うが、やり直すことに決めたんですね?と尋ねる。月菜は首を横に振り、実家に帰って一度自分をリセットすることにしたことを話す。それを聞いた克麻は、月菜さんらしさが戻ってきたと笑顔を見せて、手を振り店を後にするが、その背中はとても寂しげだった。見送った月菜は電池が切れたように立ち尽くすのだった。

[23]

それから3年が経ち、良城と別れ、克麻とのパリ行きを取りやめた後、月菜は実家のある金沢でファンシーショップを始めた月菜は、顧客である高輪のブライダルサロンとの打ち合わせでクリスマス直前の東京に出てきていた。再会した早智子から息子・克彦の子守りを頼まれ、その克彦を夫の高波がいる六本木のレストランまでに連れて行くと、後からやってきた早智子は、プレゼントになるかどうかはあなた次第、と言って月菜にクリスマスカラーの紙袋を渡す。レストランで食事する早智子たちと別れ、渡された紙袋を開けると、それは月菜と別れてから2年後に良城が出した『空をしらないモジャ』の改正版だった。

[終章]

月菜が『空をしらないモジャ』のページを捲っていくと、「その後のモジャ」の話が書き加えられていた。月菜は目を潤ませながら、一字一句に込められた意味を噛み締めるように読み進める。5ページにも満たないその部分には、7年間、夫婦が抱えていた問題について、良城がどう受け止め、どんな答えを出したのかが綴られているように感じた月菜は、タクシーを呼び止め、渋谷の「夢の扉」に向かう。早智子からは店名が変わると聞いていたが、店名は「夢の扉」のままだった。店に入ると、かつて月菜が座っていたカウンターに座っていた良城が、お帰り、と声をかける。『モジャ』を読み終えて、それを予感していた月菜は、自分が来ることが分かっていたのかと尋ねると、良城は、ここにいれば必ず逢えると信じていたと答える。良城の話を聞いて、肩を震わせ、涙する月菜に、良城はハンカチを差し出し、僕と結婚してもらえますか?と告白する。しゃくりあげながら頷いた月菜は、良城に駆け寄り、両腕を背中に回して抱きしめる。そして、誰よりもつよく抱き締めてほしいと願う自分とさよならすることを心の中で誓うのだった。

(ここまで)

 

改めて先日観た実写版映画を思い出してみると、月菜と良城は同棲している恋人、月菜に接近する男性はレストランのシェフで韓国人となっていました。また、良城が潔癖症を発症した経緯は描かれず、男性がカミングアウトするのも、女性を真剣に愛したことがないというところにとどまっていましたが、原作である本作では、月菜と良城は結婚生活8年目の夫婦、月菜に接近する男性はバーのバーテンダーで日本人、潔癖症の発症のきっかけは自分の問題で子どもが作れないことが判明したことであり、男性との肉体関係もある同性愛者であることを明確にカミングアウトした形になっています。時間に制約のある映画では、原作小説の要素を全て盛り込むことは当然無理なので、多少の設定変更は避けられないのですが、もう少し原作寄りにした方がより説得力が出たのではないかと、本作を読んでみて改めて思いました。