今回はハチャトゥリアンのCDを。
1.ハチャトゥリアン:勝利の詩[1950](世界初録音)
2.イッポリトフ=イワノフ:組曲「コーカサスの風景」op.10[1894]
3.ハチャトゥリアン:交響曲第3番「交響詩曲」[1947]
フョードル・グリュシチェンコ指揮BBCフィルハーモニック
(録音 1993年、リーズ、タウン・ホール(ライヴ))
ハチャトゥリアンの交響曲第3番は、通常の2~3管編成にトランペット15本とオルガンが加わった大編成、単一楽章の25分弱の曲で、交響曲というより、交響詩、あるいはファンファーレ・トランペットとオルガンのための協奏曲という趣きの作品。ロシア革命30周年のために作られた作品だそうですが、それにしてもこのような常軌を逸した編成を選択したことにどのような意図・背景があったのでしょうか?
冒頭、小さく始まる高弦などのシ(H/B)の持続音が音量を増していくと、その中から湧き出るようにトランペットによるファンファーレが始まります。一度静まったファンファーレが再び高揚すると、一転してオルガンによる激しいトッカータとなり、時折ファンファーレが重なりながら更に高揚していきます。
オルガンを受け継いで激しく入ってきた弦楽器が静まっていくと、ヴァイオリンなどが朗々と旋律を歌う中間部に入ります。
再びテンポを速めると、前半と同様のオルガンとファンファーレの絡み合いを経て、中間部のメロディがテンポを変えてトランペットで高らかに奏され、高揚のうちに曲を閉じます。
「勝利の詩」は、速いテンポで勝利の喜びを表すようなウキウキするテーマで始まり、全体にテーマを変えつつ喜びの音楽が続きますが、中間部は勝利までの道のりの回顧ともとれるゆったりしたメロディが歌われます。
「コーカサスの風景」は、時代も曲調も2曲と全く異なりますが、コーカサスで育ったハチャトゥリアンにちなんだ選曲だろうと思います。
イッポリトフ=イワノフは、若いころ10年ほど音楽学校の校長として現在のジョージア(グルジア)の首都のトビリシに赴任した際に、コーカサスの民族音楽の研究に取り組んだそうで、この曲にもその成果が生かされています。
1.峡谷にて
牧歌的なホルンで始まり、川のせせらぎを表すヴァイオリンの伴奏の上に木管楽器がゆったりとしたメロディを奏でます。
2.村にて
イングリッシュ・ホルンとソロ・ヴィオラが憂いを帯びつつ情熱も感じさせるモノローグを会話のように交互に奏で、中間部は一転して踊りの音楽になります。
3.僧院にて
木管・ホルンとティンパニのみで演奏され、物憂げな夕暮れ時のような哀愁ある曲。
4.酋長の行列
オーケストラマーチ名曲集みたいなアルバムにたまに入っていたりするので、この曲が1番有名だろうと思います。ピッコロとファゴットによる第1主題、オーボエによる第2主題が次第に盛り上がって、最後は華やかに終わります。
演奏の方は、ハチャトゥリアンの2曲は全体のバランスが良く、優れた演奏。ファンファーレ隊も良く吹いていてハーモニーも比較的整っています。録音も良く、オルガンも迫力があります。「コーカサスの風景」も整った演奏ですが、テンポがゆったり目のせいか、もう少し音楽が生き生きとすると良かったのになあという印象。
交響曲第3番は手元にもう1枚CDがありました。
1.ショスタコーヴィチ:交響曲第6番ロ短調 op.54[1939]
2.ショスタコーヴィチ:「黄金時代」組曲 op.22a[1930]
3.ハチャトゥリアン:交響曲第3番「交響詩曲」[1947]
レオポルド・ストコフスキ―指揮シカゴ交響楽団
(録音 1968年2月20・21日、シカゴ、メディナ・テンプル)
ストコフスキーというと、名曲の個性的なアレンジによる録音だったり過剰な演出だったり、個人的には(失礼ながら)ゲテモノ感があるのですが、同時代の作品の(アメリカ)初演を数多く行った初演魔?でもあるようで、このCDの収録曲もその1つのようです。
ショスタコーヴィチの2曲は機会があれば改めて紹介するとして、ハチャトゥリアンの交響曲第3番ですが、上記のグリュシチェンコ盤と聴き比べれば独特な解釈が見え隠れする箇所もなくはないといえ、アメリカ初演ということもあってか、全体としては、個人的な先入観とは違って、楽譜を比較的素直に音にしたという印象。 こじんまりしたオルガンの音など、録音に古さを感じますし、音楽が停滞気味の部分もありますが、録音当時ストコフスキーは既に86歳、その齢に至っても新曲に取り組む意欲は驚嘆に値します。オケも上手。
「コーカサスの風景」も他のCDを。
1.チャイコフスキー:バレエ音楽「眠りの森の美女」より[1889]
2.イッポリトフ=イワノフ: 組曲「コーカサスの風景」op.10[1894]
ロジェ・デゾルミエール指揮パリ音楽院管弦楽団
(録音 1951年6月)
いかんせんモノラル録音で、音の古さは否定できませんが、当時の録音としては比較的クリアですし、雰囲気は悪くない。旧ソ連(ロシアほか)と縁のない指揮者&オケの組合せによる録音という意味では、貴重な1枚かもしれません。
1.ムソルグスキー:交響詩「禿山の一夜」
2.ボロディン:歌劇「イゴール公」よりダッタン人の行進
3.ボロディン:交響詩「中央アジアの高原にて」[1880]
4.イッポリトフ=イワノフ: 組曲「コーカサスの風景」op.10[1894]
ウラディミール・フェドセーエフ指揮モスクワ放送交響楽団
(録音 1981年6月15・16日、モスクワ放送局大ホール)
今やロシア人指揮者では巨匠格のフェドセーエフの若い頃のロシア名曲集の録音。ロシア風の金管は好みがあるかもしれませんが、活気があって、全体に優れた演奏。個人的には4曲目冒頭で低音の伴奏を吹く2番ファゴットの四分音符を長めに引っ張る野暮ったい吹き方が何ともいえない味があって面白い。グリュシチェンコ盤よりもお勧めです。