鷺の停車場

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清水一利『「東北のハワイ」は、なぜⅤ字回復したのか スパリゾートハワイアンズの奇跡』

集英社新書の清水一利『「東北のハワイ」は、なぜⅤ字回復したのか スパリゾートハワイアンズの奇跡』 を読みました。

たまたま見かけて手にした本。2018年3月に刊行されています。

いわき市にある「スパリゾートハワイアンズ」。年間百数十万人の利用客が訪れる人気のリゾート施設ですが、2011年(平成23年)の東日本大震災で施設、風評ともに大きな影響を受け、利用客が激減しますが、翌年度には震災以前の水準を取り戻し、その後も利用客を集めています。

本書では、東日本大震災後の急回復を遂げた舞台裏、そして創業時に遡って、その企業文化を探った本。著者の清水一利氏は、ある新聞社の取材の仕事で初めてスパリゾートハワイアンズを訪れた時に、東日本大震災に被災、そこでの従業員たちの献身的な行動を目の当たりにし、この企業に興味を抱くようになったそうです。

「第一章 三・一一からのV字回復」では、東日本大震災からの復興に向けた奮闘を、当時社長だった斎藤一彦に焦点を当てて描いていきます。いわき直下で起きた余震による施設の被害に加え、福島第一原発の事故などによる風評被害もあり、休業を余儀なくされますが、契約社員やアルバイトは解雇せざるを得なかったものの、正社員は首にせず、フラガールによるキャラバンを行うことを決め、正社員は休業の間に他のホテルなどに研修に送り出します。これは、再開後に向けた投資という判断でしたが、「全国きずなキャラバン」の成功などで、再開後は再び多くの利用客を集めることに成功します。

「第二章 創業者の経営哲学」では、当時の常磐炭礦の副社長で昭和41年の創業時に社長となった中村豊に焦点を当てて、その経営哲学を描いていきます。炭鉱が斜陽化していく中で、雇用を確保するため、採掘で大量に湧出する温泉を活用して温水プールなどを中心とする娯楽施設を作るのですが、ハワイをテーマにしたのには偶然の出会いもありました。

「第三章 追い風と逆風」では、開業後予想以上の集客に成功しますが、昭和46年の新抗の水没事故で200億円もの借金を背負い、施設の設備更新もままならない状況に陥りますが、知恵を絞って組織動員型イベントに活路を見い出して苦境を乗り越え、昭和63年の常磐自動車道の開通やバブル景気の到来が後押しして業績が回復します。平成2年には「常盤ハワイアンセンター」から「スパリゾートハワイアンズ」に名称を変更し、それまでと異なるコンセプトの施設もオープンさせていきます。バブルの崩壊で業績は悪化しますが、平成18年の映画「フラガール」のヒットが強烈な追い風となります。

「第四章 東北復興の未来戦略」では、震災後、平成25年に初めて外部から招かれて車長になった井上直美に焦点を当てて、その後の取り組みを描いていきます。

「第五章 「生き延びる企業」とは?」では、東日本大震災時の社長・斎藤一彦と、現在の社長・井上直美のインタビューで、時代を生き延びた会社の個性を浮かび上がらせていきます。

「終章 「進化した一山一家」を目指して」では、これまでの成功が、集客、お客さんの囲い込み、そしてリピーター化を図ってきた企業努力、そして、会社に根付いている「一山一家」の考え方にあったことが記されています。

 

なかなか興味深い本でした。50年もの長きにわたって、ある意味手ごろなリゾート施設として多くのお客さんを集めている舞台裏の一端を垣間見ることができました。

これを読んで、ついつい、以前にBlu-rayに録画していた映画「フラガール」を観直してしまいました。

改めて観ても、いい映画です。本書でも記されているとおり、これが、スパリゾートハワイアンズの大きな後押しになったことは間違いないことだろうと思います。