本作を原作にした映画をこの間観に行って、原作も読んでみることにしました。
本作は、2012年11月から2014年7月にかけて雑誌「anan」(アンアン)に連載され、2014年8月に単行本として刊行された作品、2018年9月に文庫本化されています。
文庫本の背表紙には、次のような紹介文が掲載されています。
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1クールごとに組む相手を変え、新タイトルに挑むアニメ制作の現場は、新たな季節を迎えた。伝説の天才アニメ監督・王子千晴を口説いたプロデューサー・有科香屋子は、早くも面倒を抱えている。同クールには気鋭の監督・斎藤瞳と敏腕プロデューサー・行城理が手掛ける話題作もオンエアされる。ファンの心を掴むのはどの作品か。声優、アニメーターから物語の舞台まで巻き込んで、熱いドラマが舞台裏でも繰り広げられる―—。
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主な登場人物は、
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有科 香屋子:中堅アニメ会社「スタジオえっじ」のプロデューサーで35歳。憧れの王子監督を口説き落とし、「運命戦線リデルライト」(通称:リデル)のプロデューサーとして手を尽くす。
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王子 千春:伝説の天才アニメ監督。24歳の時、デビュー作「光のヨスガ」が脚光を浴びるも、その後はトウケイ動画を飛び出してフリーとなり、9年ぶりに新作に挑む。
- 逢里:業界ナンバーワンのフィギュア会社「ブルー・オープン・トイ」(通称:ブルト)の企画部長。
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迫水:フリーの原画アニメーター。
- 郡野 葵:27歳の人気声優。瞳のアニメに声優として参加しており、王子とも付き合いが長い。
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斎藤 瞳:26歳のアニメ監督。有名私大の法学部に進み公務員を目指していたが、友達が貸してくれた野々崎努監督の劇場版アニメを観て圧倒され、超王手のトウケイ動画に入社。ゲーム内アニメの監督で注目され、初めてテレビアニメ「サウンドバック 奏の石」(通称:サバク)の監督に抜擢される。
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行成 理:トウケイ動画の敏腕プロデューサー。
- 美末 杏樹:瞳が監督するアニメに行成が声優に押し込んだアイドル声優。
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並澤 和奈:新潟県選永市にあるアニメ原画スタジオ「ファインガーデン」のアニメーター。サバクで神原画と話題になる原画を描く。
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宗森 周平:選永市観光課の職員。
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関:作画スタジオ「ファインガーデン」社長兼アニメーター
というあたり。
本編は4章から構成されています。各章の概要・主なあらすじは次のようなもの。
第一章 王子と猛獣使い
香屋子は、憧れの王子を口説いてリデルの制作に取り組んでいたが、天才肌でわがままな王子に、現場が荒む中、制作に取り組むが、ついには王子が失踪してしまう。王子と仕事がしたい、王子を守りたいと思う香屋子だが、社長の江藤からは監督の変更を告げられる。失踪から一週間、突然姿を現した王子を、香屋子は一発ぶん殴り、そして安堵する。王子は最終話までの絵コンテを仕上げていた。それを読んで涙する香屋子。制作は勢いを取り戻し、制作発表の記者会見の日を迎える。怒涛の記者会見の後、王子は本心を香屋子に明かす。
第二章 女王様と風見鶏
瞳は自らが出したサバクの企画が通り、初めてテレビアニメの監督に挑む。サバクの宣伝のために瞳をいろいろな場に引っ張り回す敏腕プロデューサーの行成のやり方に戸惑いながら、瞳は作品作りに打ち込むが、声優との関係がうまく行かず、アフレコ現場の雰囲気は悪くなるが、そこに突然現れた王子が瞳にアドバイスする。声優との関係は好転するが、過労で瞳は倒れてしまう。行城は会社近くの妻が待つ自宅に瞳を運び休ませる。行城は、瞳が憧れの野々崎の会社から声を掛けられてトウケイ動画を辞めるつもりなのを知っており、今後も一緒に仕事するために、円満に辞めてくださいと条件を出す。
第三章 軍隊アリと公務員
和奈は、好きになった逢里と会うために東京に出て、スカイツリーで逢里とデートするが、そこにアニメ雑誌の表紙を描いてほしいと行城から連絡が入り、1ファンとして和奈に接する逢里の態度に失恋を感じる。サバクの舞台のモデルとなった選永市で、サバクとタイアップしたスタンプラリーが開かれることになり、原画を描いた和奈は、スタンプを置く場所を探す選永市観光課の宗森を手伝わされることになる。健康的で真っすぐな宗森に、自分と住んでいる世界が違うと感じる和奈だったが、次第に実直な宗森に好意を抱き、宗森の取り組みを成功させたいと思うようになる。そして、地元の伝統的な祭りにサバクのイベントを行うことになった選永に、瞳や声優たちが訪れる。
最終章 この世はサーカス
トウケイ動画を辞めることになり、会社で荷造りをする瞳を、行城が送別会に誘う。一方、香屋子、取材を受ける王子をフォローし香屋子は、王子が古巣のトウケイ動画で行城と組んで作ることになった次回作を見てみたいと思うのだった。
(ここまで)
映画版では、全体の尺の制約もあって、瞳は香屋子と同じく、王子の「光のヨスガ」を観て県庁からアニメ業界に転職したという設定で、制作発表の記者会見ではなく、瞳と王子のトークショーで直接対決?する形になっていました。
上で簡単に紹介したあらすじでは省略しましたが、様々な登場人物の関係がうまく織り込まれ、第三章の最後のお祭りの場面でそれが豪華?に結実する展開は、巧みだと思いました。
以前に読んだ辻村深月さんの作品は、これも映画の原作となった「朝が来る」でした。こちらは、不妊治療と特別養子縁組と、全く違うテーマを扱った作品ですが、こうした様々なテーマの作品を、鮮やかに描くことができるのは、作家としての才能・技術の鷹さがあってのことなのでしょう。