鷺の停車場

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山崎ナオコーラ「手」

山崎ナオコーラさんの小説「手」を読みました。

books.bunshun.jp

本作を原作にした映画をこの間観に行って、原作も読んでみようと思い、図書館で借りて読んでみました。

reiherbahnhof.hatenablog.com

本作は、「文藝界」2008年12月号に発表された作品。2009年1月に、本作のほか、「笑うお姫さま」、「わけもなく走りたくなる」、「お父さん大好き」の計4編を収録した「手」として単行本化され、2013年3月には、収録作品はそのままに「お父さん大好き」とタイトルに変えて文庫本化されています。

文庫本の背表紙には、次のような紹介文が掲載されています。 

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恋人ではないけれどセックスはする会社の先輩と、セックスはしないけれどつきあっている30歳年上の上司との間で揺れる20代女性を描いた「手」(芥川賞候補作)。NHKラジオ文芸館で異例の話題となった、血のつながらない娘と暮らす44歳のサラリーマンが主人公の、「お父さん大好き」など4作を収録した新鋭の中短編集。解説・川村湊
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主な登場人物は、

  • 寅井 サワコ:配信会社で新聞のラテ欄を作る仕事をしている25歳。おじさんを盗撮しては「ハッピーおじさんコレクション」と題したホームページにアップするのが趣味。両親と7歳下の妹の4人暮らし。

  • 森さん:27歳の会社の元先輩。サワコとセックスをする関係になるが、別に恋人がいる。

  • 大河内さん:58歳の会社の上司。妻と、家を出て独立した32歳の娘と27歳の息子がいる。

というあたり。

本編は、章や見出しはなく、1行の間隔を開けて区切られた部分が積み重ねられる形で構成されています。おおまかなあらすじを記すと、次のような感じです。

 

夜11時、残業しているサワコのところに、雑誌の部署にいる森さんがやってきて声をかけ、3月で会社を辞めると話す。家に帰ったサワコは、父親の仕事用のパソコンを借り、携帯の画像をパソコンに移す。父親が声をかけるが、父親は明るい妹とは仲睦まじいが、暗いサワコとは通り一遍の会話しかしない関係になっていた。
サワコは、おじさんが大好きで、10代後半の頃から、年上の男友だちとセックスはしないけれどデートはする、という関係を続けており、今は会社の上司の大河内とデートをする関係になっている。また、おじさんの笑顔をケータイで写真を撮っては、自身が運営するホームページ「ハッピーおじさんコレクション」にアップしていた。
3月の終わり、森さんの送別会が開かれる。夜通し酒を飲んで、運良く森さんと二人になったサワコは、森さんとキスをし、4月になって、森さんとセックスをする関係になる一方で、大河内さんとのデートも続いていた。
5月の終わり、森さんから就職先が決まったと連絡が入り、お祝いにレストランに行った後、森さんのアパートに行き、飲み直した後、セックスをして、眠る。
6月中旬、大河内さんと上野の薔薇園に出かけるサワコ。夜は中華を食べにお店に入ると、大河内さんは寅井さんに甘えたいと言ってキスをする。醒めているサワコは大河内のセリフに可笑しくて仕方がなく笑う。
その後も二人との関係は続いていくが、7月の終わりになって、「ハッピーおじさんコレクション」に悪意のこもったコメントが付けられており、有名な掲示板で揶揄の対象になっていることを知る。潮時だと気づいたサワコは、ホームページのHTMLを全て抹消し、大河内さんや森さんと別れようと考える。
大河内さんとは最後に京都に旅行する。旅先で、大河内さんはかつてつき合っていた女性や自分の家族との関係についてサワコに語る。
森さんには、9月に入ってから、最後の電話をかける。森さんは恋人との結婚を宣言するが、いつ?と聞くとしどろもどろになる。サワコは自分との関係が恋人にばれたのだと思う。
9月の中頃、サワコは耳が遠くなって病院に行く父親に付き添う。その帰り、自分の悩みを年齢のせいにする父親の言葉に、もう二度と家に帰りたくないと思う。
9月の終わり、最後に森に会うサワコは、不忍池でボートに乗り、動物園、水族館などに行った後、森さんのアパートに行ってセックスをする。翌朝、出勤する森さんと一緒に電車に乗り、サワコは笑って別れるが、別れを惜しむ森さんは、目が真っ赤になって涙を流す。

(ここまで)

 

映画では、学生時代のノボルとの交際(セックス)や、過去に交際したオジサンたちとの再会、終盤での父親との和解など、原作である本作にはなかった要素が加えられ、自分探しの物語、という印象を受けましたが、本作を読むと、自分探しの色合いはほとんどなく、家族や交際相手などと醒めた目で接しているクールな女性という印象を受けます。サワコの批評対象であるオジサンの目からは、共感こそできませんでしたが、サワコの心情には理解できる部分もあり、独特の肌触りが感じられる作品でした。

併録されている「お父さん大好き」も印象的でした。