鷺の停車場

映画、本、グルメ、クラシック音楽、日常のできごとなどを気ままに書いています

住野よる『か「」く「」し「」ご「」と「』

住野よるさんの小説『か「」く「」し「」ご「」と「』を読みました。

小説新潮」2015年9月号から2016年6月号にかけて断続的に掲載され、加筆修正を施して2017年3月に単行本として刊行された作品。2020年10月に文庫本化されています。私が読んだことがある住野よるの作品との時系列でいえば、「よるのばけもの」と「青くて痛くて脆い」の間、4作目の小説ということになります。

文庫本の背表紙には、次のような紹介文が掲載されています。

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みんなには隠している、少しだけ特別な力を持った高校生5人。別に何の役にも立たないけれど、そのせいで、クラスメイトのあの子のことが気になって仕方ない―—。彼女がシャンプーを変えたのはなぜ? 彼が持っていた”恋の鈴”は誰のもの? それぞれの「かくしごと」が照らし出す、お互いへのもどかしい想い。甘酸っぱくも爽やかな男女5人の日常を鮮やかに切り取った、共感必至の青春小説。

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文庫本の帯で紹介されている主要登場人物は、次のとおりです。

  • (くん)【大塚】:地味な自分に引け目を感じている。気になるのに言い出せないことも。

  • ミッキー【三木】:ヒロインよりヒーローになりたい。必殺技は飛び蹴り。

  • パラ【黒田】:パッパラパーで予測不能。ふざけているようで実は本気?

  • ヅカ【高崎 博文】:体育会系で明るい長身の「王子様」。皆に好かれるクラスの人気者。

  • エル【宮里】:内気で控えめ。裁縫が得意。ある日突然、不登校に。

(それぞれの本名は加筆しました。)

本作は、プロローグ、エピローグと5章から構成されています。それぞれの大まかな内容を紹介すると、次のような感じです。

プロロオグ

魔王だという1人ともう1人との会話。セリフだけなので誰と誰が話しているのかは明かされていませんが、最後まで読み終えてから読み直すと、私にはミッキーと京の会話のように思えました。

か、く。し!ご?と

京の視点から、高校2年生の7月ごろの日々を描いています。周りの人の頭の上に、その内心を表す「?」「!」「、」「。」が浮かぶのが見える京は、ミッキーに片想いし、ゴールデンウィーク前から席が隣だったエルが不登校になっていることが気になっていたが、ミッキーの行動力で、その原因となっていたエルの誤解が解け、再びエルが登校するようになる。

か/く\し=ご*と

ミッキーの視点から、高校2年生の10月ごろの日々を描いています。周りの人の胸に、心の動きを表すバーが見えるミッキーは、クラスで演じる文化祭のステージ演目のヒーローショーでヒーロー役を演じることになるが、本番でまさかの失敗をしてしまう。

か1く2し3ご4と

パラの視点から、高校2年生の2月、修学旅行での日々を描いています。周りの人の胸に浮かぶ胸の鼓動を示す数字のリズムが見えるパラは、パッパラパーなふりをしているが、計算高く、京のミッキーへの片想いを成就させようとしていた。ミッキーとくっついてしまうかもしれないヅカを排除するため、自分が捕らえておけばいいとヅカを誘惑するが、自分の行動のミスで抱いた罪悪感と疲労から、風呂場で失神してしまう。

か♠く♢し♣ご♡と

ヅカの視点から、高校3年生の4月ごろの日々を描いています。周りの人の頭の上に、喜怒哀楽を示すスペード・ダイヤ・クラブ・ハートが見えるヅカは、エルのことが気になるようになっていたが、頭の上に哀しみを示すクラブが浮かべるエルを何とかしたいと、勇気を出してその原因を直接尋ねると、意外な答えが返ってくる。

か↓く←し↑ご→と

エルの視点から、高校3年生の夏休みの日々を描いています。周りの人の心が誰に向いているかを示す矢印が見えるエルは、友達となった京と一緒に図書館で受験勉強をする中で、ミッキーと京がお互いのことが好きなのが周りにはバレバレなのに、本人たちだけが気づいていない状況を何とかしようと、臆病な京に自分の気持ちをミッキーに伝えるよう促すが、そんなある日、しびれを切らしたミッキーが驚きの行動に出る。

エピロオグ

プロロオグと同様に、誰かは明かされない2人の会話。私は、互いの気持ちを知った後のミッキーと京の会話と思って読みました。

 

周囲の人たちの心の片鱗が、それぞれ違う形で見ることができる特別な力を持った高校生5人のクラスメイトの、互いへの思いやそれぞれの本心・「かくしごと」を描き出しています。映画化もされ大ヒットした「君の膵臓をたべたい」の後の作品では、人の心の暗闇にも目を向けるような要素が入っていた印象ですが、本作では、そうした要素は感じさせず、彫りは深くありませんが、紹介文にもあるとおり、どこかもどかしい高校生たちの心情を描いた爽やかな作品になっていました。