鷺の停車場

映画、本、グルメ、クラシック音楽、日常のできごとなどを気ままに書いています

映画「はざまに生きる、春」

休日の朝、MOVIX柏の葉に行きました。


朝9時前の時間帯、ちょうど朝イチの上映回がほとんど始まった後だったのか、ロビーは閑散としていましたが、11時前に観終わって出てきたときにはかなりの混雑になっていました。


この日の上映スケジュールの一部。この日は、「ファンタジー・オン・アイス」のライブビューイングなども含めて26作品・28種類の上映でした。この映画館としても、作品数が多い方の日です。

この日観るのは、「はざまに生きる、春」(5月26日(金)公開)。一週間後にはイオンシネマなど32館が上映館に加わるようですが、公開初週は60館と、やや小規模での公開。千葉県内では、この映画館を含めて3館のみとなっています。


上映は93+2席のシアター7。お客さんは10人ほど。公開初週の週末としては寂しい入りでしょう。


(チラシの表裏)

発達障害を持つ画家の男性と雑誌編集者の女性との恋愛を描いた作品で、監督・脚本は葛里華。1992年生まれ、初の長編・商業作品なのだそうです。

 

公式サイトのストーリーによれば、

 

出版社で雑誌編集者として働く小向春(小西桜子)は、仕事も恋もうまくいかない日々を送っていた。
ある日、春は取材で、「青い絵しか描かない」ことで有名な画家・屋内透(宮沢氷魚)と出会う。
思ったことをストレートに口にし、感情を隠すことなく嘘がつけない屋内に、戸惑いながらも惹かれていく春。
屋内が持つその純粋さは「発達障害」の特性でもあった。ただ、人の顔色をみて、ずっと空気ばかり読んできた春にとって、そんな屋内の姿がとても新鮮で魅力的に映るのであった。
周囲が心配する中、恋人に怪しまれながらも、屋内にどんどん気持ちが傾いていく春だったが、「誰かの気持ちを汲み取る」ということができない屋内にふりまわされ、思い悩む。
さまざまな “はざま”で揺れる春は、初めて自分の心に正直に決断するー。

 

・・・というあらすじ。

 

公式サイトで紹介されている主要登場人物は、次の2人のみ。

  • 屋内 透【宮沢 氷魚】:発達障害アスペルガー症候群)の新進気鋭の画家。青い絵しか描かない。

  • 小向 春【小西 桜子】:雑誌Maybe!の編集部に勤める雑誌編集者。

そのほか、公式サイトなどで紹介されているキャストのうち、役柄が分かった人だけ紹介すると、

  • 細田 善彦:春が同棲している恋人。大学時代からの付き合いで、違う雑誌の編集部で働いている。

  • 中西 俊介:編集部での春の後輩。

  • 葉丸 あすか:春が企画した屋内透特集に参加したライター。

  • 芦那 すみれ:春が企画した屋内透特集に参加した写真家。

など。なお、劇中ではそれぞれ名前も出てきていたはずですが、すっかり忘れてしまいました。

 

自分の備忘を兼ねて、記憶の範囲で、もう少し詳しめにあらすじを記すと、

 

企画を出しても編集長に厳しい指摘を受けボツにされてばかりの春。そんなある日、屋内透の取材のアポイントが取れた編集長は、その取材に春を連れていく。
取材の日、待ち合わせ場所の公園に行った春は、樹木をじっと見る不思議な青年に出会う。それは、取材相手の屋内だった。取材をしているうちに、スタッフから屋内が発達障害だが、はざま(グレーゾーン)かもしれないと聞かされる。真っすぐな屋内に好感を抱いた春は、週に一度は映画を観る日にしているという屋内に、自分が学生時代に映画を作っていたことを話すと、屋内はそれを送ってほしい、観るので、と自宅の住所を書いて渡し、春はそのDVDを家の引き出しから引っ張り出して、屋内に送る。
春は、雑誌で屋内の特集を組もうと、企画書を書いて編集長に提出すると、酷評されボツにされてしまうが、屋内の絵が好きな同じ編集部の後輩の協力も得て、企画書を練り直す。その締切が迫り、職場で残業していた春に、屋内から突然電話がかかってくる。いま月食なので外を見てと言う屋内に、春は窓から外を見るが、都会の夜空でははっきりと見えない。それを話すと、屋内は自宅から撮ったきれいな月食の写真を送り、見に来ないかと春を誘う。
締切間際の春はいったんは断ろうとするが、屋内の言葉に、春は屋内の家を訪れ、朝までともに過ごす。帰り際、人が左側にいないと安心できないと話す春に、屋内は春が大丈夫な角度を緻密に確認し、その角度からしか入らないと約束する。
春の熱意が通じて、春が提出した屋内透特集の企画書が通り、春は初めて記事の特集のチーフを務めることになる。
喜ぶ春が家で無意識に鼻歌を歌いながら料理をしていた時、突然屋内から連絡が入る。慌てて春が駆け付けると、屋内はアパートの壁に絵を描いていた。光を閉じ込めたかったと話し、手に絵の具を付けて壁に絵を描いていく屋内だったが、無許可で描いていたため、春は絵を描くのをやめさせたくない春は、必死に謝る。
春に謝らせてしまったことを悪く思う屋内に、春が特集記事の企画が通ったことを話すと、屋内も喜び、その特集のために絵を描くを話し、人物の絵を描いてみたいので、春のポートレートを撮らせてほしいと頼む。
2人は待ち合わせて水族館に行く。そこで、屋内が割引を受けるため障害者手帳を券売所に提示したことで、屋内がはざま(グレーゾーン)でないことがわかる。2人は水族館などで楽しい時間を過ごし、打ち解けるが、春が青だけでなく他の色の絵も見てみたいと口にしたところ、屋内は態度を一変させ、春に他意がないことはわかるがその話はやめてほしいと打ち切る。
雑誌の取材のため、スタッフたちと再び屋内の自宅を訪ねた春。やってきた女性カメラマンはちょっと変わった振舞いをするが、屋内とは意気投合し、リラックスした写真を撮っていく。
後日、スタッフと特集記事のページの背景色などについて打ち合わせる春は、背景もやはり青にすべきだと提案し、違う背景色になっていた原案を変更する。打ち合わせが終わる頃、屋内から自宅に誘う連絡が入る。春は屋内のもとに急いで向かおうとするが、それを女性ライターが呼び止め、屋内をどう思っているのか尋ねる。尊敬している、と答える春に、それ以上の関係になるのは止めた方がいい、春が傷つくだけだと忠告する。春は、自分は大丈夫、屋内とは通じ合った気がすると反論するが、女性ライターは、それは春がそう思っているだけではないかと指摘する。
屋内の家に行き、一緒にホラー映画を観る春は、屋内への思いから、次第に屋内に身を寄せて手を合わせ、親密なムードになる。満たされた思いになる春だったが、翌朝、屋内の自分に対する気持ちを確かめようと質問する春の言外の思いを読み取れない屋内のストレートな反応によって、春は気持ちがすれ違ったように感じ、ギクシャクしたまま別れてしまう。帰宅した春に、春の変化を怪しむ恋人はどこに行っていたのか問い質すが、春はごまかす。
屋内とのやりとりが途絶えてしばらくして、春は屋内との仲を怪しんで、特集記事の撮影を務めた女性カメラマンの個展を見にいく。そこには、かつて自分とデートした時に屋内が作ったガラスの花瓶に花が生けてあり、屋内のポートレートも展示されていた。春を見つけたカメラマンは、屋内を「透くん」と呼び、屋内といると居心地がいいと話し、春は屋内が自分ではなくカメラマンと恋仲になったのだと思い、その場を逃げ出し、家に帰って涙する。それを見た恋人は、春を抱きしめ、好きだと愛情のこもった言葉をかける。
屋内との関係が修復できないまま日が過ぎ、屋内から特集記事のために書いた絵が届くが、それは人物画ではなく、風景を描いた青い絵だった。しかし、雑誌の特集は人気を博し、増刷を重ねる。
そんな中、屋内から桜を見に来ないかと突然連絡が入る。久しぶりに屋内と会った春は、もう会うことはないと思っていたことを話すと、屋内は桜を見に来ることは以前の約束だったこと、もう一つ、さくらんぼを食べる約束が残っていると話す。春は、私も幸せになるから、屋内にも幸せになってほしい、私は屋内が好きだが、屋内にはそのままでいてほしい、と自分の気持ちを打ち明ける。
特集記事の大成功を祝って打ち上げが開かれる。屋内にも声を掛けていたが、やってこない。そんなとき、突然会場に屋内が絵を持って現れ、これを春に見てほしいと差し出す。それは、特集記事のために描き、編集部が屋内に返却した絵だったが、屋内は、その絵に人物を書き加え、青でないカラフルな色が重ねられていた。屋内は、青以外の色も使ってみたいと思ったが、春が好きな色が何か聞けていなかったので、どの色でもいいように様々な色を使ったこと、自分も、好きな春のことをいろいろ知りたいと話す。
そこに、屋内のスマホのアラームが鳴り、それを見た屋内は、春を連れて外に飛び出す。それは、スーパームーン月食を知らせるアラームだったが、都会の街中では、月を見つけることができない。しかし、春はたまたま見かけた葉桜を屋内とともに見つめ、ふたりの気持ちは通じ合う。

 

・・・という感じ。(セリフ等の細かい表現などは、記憶違いもあるかと思います。)

 

発達障害アスペルガー症候群)を虚飾なく描いた佳作で、心が洗われるような物語でした。何より、アスペルガー症候群の有名画家・屋内を演じた宮沢氷魚の演技は素晴らしかった。難しい役どころですが、空気が読めずストレートだが真っすぐ気持ちを持っている発達障害の青年を見事に演じていました。春役の小西桜子も好印象でした。

ただ、私自身は感動、感涙とまでは感じ入りませんでした。私が無意識に引っかかったのは、たぶん大きく2つあったのだと思います。

1つは、本作は2人が幸せに結ばれる、という雰囲気で終わりますが、実際には、これはスタートラインのようなもので、この先、次第に新鮮さが失われた後も、春が屋内に対する思いを持ち続けられるのか、ということ。春の言動には、普通の人に対するように、言外の意味を読み取ってくれることを期待する部分が残っていました。勇気を出して、思いをきちんと伝えることができなければ、劇中でライターが忠告したように、おそらく、この先も、それが理解されずに傷つくことがあるだろうし、もしかするとそれに耐えられずに別れてしまうかもしれない、という気持ちが残りました。

もう1つは、悪い言い方をすれば、春が二股をかけていることにどう決着を付けていくのか、ということ。公式サイトのストーリーには「仕事も恋もうまくいかない日々」とありますが、恋人の振舞いには、仕事が忙しそうなことを除けば、特に目立った問題があるようには見えず、むしろかなり温かく春に接しているように映りました。きちんと今の恋人と向き合って別れを告げ、屋内を選ぶことができるのかは気になりました。マンネリ化して気持ちが離れていったという設定かもしれないのですが、そうだとすると、1つめの点に戻って、屋内との関係もそうなってしまうのでは、と思ってしまったのでした。

揚げ足を取るような感じになってしまいましたが、先に書いたように、発達障害アスペルガー症候群)を虚飾なく描いたいい作品であることは確かで、観る価値のある作品だと思います。