橘由華「聖女の魔力は万能です 6」を読みました。
繰り返しになりますが、2016年4月から小説投稿サイト「小説家になろう」に連載が始まり、2017年2月にカドカワBOOKSから単行本として刊行が始まった作品で、テレビアニメ版が2021年4月からの2021年春クールに第1期、2023年10月からの2023年秋クールに第2期が放送されています。
第6巻の本巻は、2020年2月刊行の第5巻から7ヶ月後の2020年9月に刊行されています。
背表紙には、次のような紹介文が掲載されています。
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異国・ザイデラの船長を自作ポーションで助けたり、念願の日本食材を発見したり、港町散策を満喫していたセイ。米だけじゃなく、味噌もあれば和食が食べられる! と異国への興味を強めていたセイに不穏な報告が入る。留学生としてザイデラから皇子がやってくるらしい。名目は勉学のための留学と言うが、本当の目的は、港町で特殊なポーションを持っていた人物――つまり、セイにあるようで……?
研究者の本領を発揮し、皇子と新ポーション共同開発!?
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前巻と同様に、本書の冒頭、前巻までのあらすじを紹介するページの前に、主なキャラクターを紹介するページが挿入されています。内容も前巻と同じですが、そこで紹介されている登場人物は、次のとおりです。
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セイ:異世界に聖女として召喚されたOL・小鳥遊聖(たかなし せい)。治療や魔物の浄化で大活躍し、各所から崇められるようになってしまったのが最近の悩み。料理や化粧品の開発が息抜き
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アルベルト・ホーク:第三騎士団の団長。ちまたでは”氷の騎士様”と呼ばれているほどクールらしいが、セイの前では……?
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レオンハルト:クラウスナー領の傭兵団を取りまとめるリーダー。優秀な薬師の腕をもつセイを気に入っている <なお、本巻では登場しません>
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ユーリ・ドレヴェス:宮廷魔導師団の師団長。魔法や魔力の研究になると目の色が変わる。今は、セイの魔力に興味津々
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ヨハン・ヴァルデック:薬用植物研究所の所長。セイの面倒をよく見てくれる。アルベルトとは幼なじみらしい
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アイラ:セイと同じく異世界に召喚された高校生・御園愛良(みその あいら)。魔導師団で魔法の勉強をしている
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ジュード:薬用植物研究所の研究員で、セイの教育係。面倒見がよく、人懐っこい。よくセイの料理をつまみ食いしにくる
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エアハルト・ホーク:宮廷魔導師団の副師団長で、アルベルトの兄。口数は少ないが常識人。ユーリにいつも振り回されている
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エリザベス・アシュレイ:図書館で友達になった侯爵令嬢。セイのことをよく慕ってくれている
このほかに、この第5巻で登場する、個別に名前などが付与されているキャラクターとしては、次の人たちがいます。
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国王:スランタニア王国の国王のジークフリート・スランタニア。十年以上前に病で王妃を亡くしている。
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宰相:スランタニア王国の宰相のドミニク・ゴルツ。
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レイン・スランタニア:スランタニア王国の第二王子で、国王の次男。
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マリー:王宮でセイの世話をしてくれる侍女。
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テンユウ:ザイデラ国の第十八皇子。皇帝の七番目の側室の息子で16歳。薬師を求めてスランタニア王国に留学生としてやってくる。
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フランツ:セイが開発した商品を取り扱う商会の会長となった白髪に深い青色の瞳の紳士。特務師団出身者。
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オスカー・ドゥンケル:セイが開発した商品を取り扱う商会で会長を補佐する橙色の髪に緑色の瞳の男性。実は現役の特務師団員。
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コリンナ:スランタニア王国で一、二を争う薬草の産地で、薬師の聖地とも呼ばれるクラウスナー領の専属の薬師。
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ヨーゼフ:スランタニア王国の軍務大臣のヨーゼフ・ホーク。ホーク辺境伯家の長男で、アルベルトとエアハルトの兄。
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内務大臣:スランタニア王国の内務大臣のアルフォンス・フンメル。
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アシュレイ侯爵:エリザベスの父の侯爵。
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第一王子:スランタニア王国の第一王子のカイル・スランタニア。国王の長男で、エリザベスの婚約者。聖女の召喚をめぐるトラブルで、現在は王宮内で謹慎させられている。
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ローラント:ヴァルデック伯爵家の嫡男で、ヨハンの5歳上の兄。
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セイラン:セイが港町モルゲンハーフェンで出会ったザイデラから来た船の船長。
本編は、主人公・セイの視点から描かれる5章と、その間に挿入されるセイ以外の者の視点から描かれる「舞台裏」と題する閑話で構成され、本編の後に、ショートストーリー集が収載されています。各章の概要・主なあらすじは、次のようなもの。
第一幕 外国からのお客様
王宮に呼び出されたセイは、国王の執務室に案内される。国王は、お披露目会と舞踏会への参加に感謝の言葉を述べ、セイに接触を図って迷惑する者がいればこちらで対処すると伝えた後、留学生が来るので研究所にも協力してほしいと話す。それに続き、宰相が、この国と取引のあるザイデラ国の皇子が留学にやってくることになったが、皇子は王立学園(アカデミー)で勉強しつつ、いくつかの研究所を視察したいと要望しており、薬用植物研究所も対象となることから、できる限り【聖女】の能力を秘匿するため、皇子とセイの接触をなるべく控えたいと説明し、セイに王宮で過ごすことを提案するが、いったん持ち帰ることにする。
検収書では留学生を迎えるため整理整頓が行われるが、ジュードはモルゲンハーフェンで渡したポーションが原因では、と話し、それを耳にしたヨハンは、陛下も同じように考えたのだろうと語り、セイは提案と自分の希望を折半し、皇子がいない時だけ王宮から研究所に通うことにする。
数日後、図書館でエリザベスと会ったセイは、王立学園でも生徒会長のレインを中心に生徒会で皇子の対応をすることなり、副会長のリズも準備に追われていると聞かされる。
そして、ザイデラ国の皇子一行が到着する。セイも、皇子・テンユウが顔が確認できないように認識阻害の魔法が付与されたヴェールを被り、謁見の場に出席する。
本章は、テレビアニメ第2期のEpisode 4「皇子」の前半部分におおむね対応しています。
第二幕 皇子様
テンユウが来て1週間が経つ頃、エリザベスとのお茶会で、セイは、テンユウについて、真面目で礼儀正しく、幅広い知識を持っているが、特に食せる植物に興味があるようだと聞かされ、テンユウが口にした植物の名前が書かれたメモを渡される。そして、そろそろ研究所の視察も始まるので一層気を付けた方がいいとアドバイスされる。
同じ頃、商会に米や味噌が届いたと連絡を受けたセイは、商会に足を運び、ユーリから米を分けてもらえないかと言われているのを聞き、その目的が米料理の効果を調べるためだと確認して、米を分けることにする。仕入れた商品の高価さに、セイは自分で稲などを生産できないか考え始める。
テンユウが来て半月が経ち、研究所への視察が始まる。テンユウの訪問予定日の前後は王宮にこもったセイが久しぶりに薬用植物研究所に行くと、ジュードから、テンユウは植物について造詣が深く、状態異常回復用のポーションの材料についても色々知っていたが、ヨハンは質問の意図が気になると難しい顔をしていたと聞かされる。テンユウの意図が何なのかジュードと話していると、そこに、突然やってきたテンユウが顔を見せる。セイは研究員として自己紹介するが、先日来たときには会えなかったと言うテンユウに、別の場所で作業していたとごまかすが、テンユウの知識に驚き、話に花が咲く。テンユウが去った後、セイとジュードと目が合わせ、互いに苦笑いする。
本章は、テレビアニメ第2期のEpisode 4「皇子」の後半部分におおむね対応しています。
舞台裏
月に1回行われる御前会議で、【聖女】のお披露目会と舞踏会を行うことが国王から告げられ、宰相からは、【聖女】へのお茶会や夜会の招待状は王宮が取りまとめることなどが連絡される。御前会議が終わり、部屋を出たヨーゼフは、国王にも親しいアシュレイ侯爵から声を掛けられる。アシュレイ侯爵は、【聖女】の結婚相手としてホーク辺境伯家は誰が立候補するのか探りを入れ、自分としてはアルベルトでも構わない、と言って去っていく。
翌日、ヨーゼフは弟のエアハルトとアルベルトを呼び、アルベルトが名乗りを上げることで話がまとまり、舞踏会に向けた作戦を考える。
数日後、ヨハンがセイも参加する舞踏会に向けダンスの練習をしていると、ローラントから声を掛けられる。ローラントから、【聖女】の結婚相手のヴァルデック伯爵家の候補とする話を持ち掛けられたヨハンは、ホーク家と敵対すると言ってそれを断る。
本章は、時系列順は少し変えられていますが、テレビアニメ第2期のEpisode 07「幕間」の中盤部分におおむね対応しています。
第三幕 目的
セイがテンユウと会ったことについて所長に報告すると、テンユウが無断で研究所にやってきたことが分かり、護衛という名の監視が常時付くことになる。
一方、テンユウは、視察後も隙間時間を縫って研究所を訪れるようになる。セイはテンユウと会うことを避けていたが、一度会った以上会わないままでいるのも問題だと考え、王宮とも相談し、次の訪問時には研究所にいることになる。やってきたテンユウは、上級ポーションは作らないのかと尋ね、セイは、作れる人はいるが失敗することが多いのであまり作らないと説明する。
テンユウが次に研究所にやってきたとき、状態異常回復用のポーションが話題となり、ザイデラでは、セイが聞いたことがない材料が使われていると聞き、セイは王宮の図書室で資料を探すが、めぼしい資料は見つからす、フランツとオスカーにザイデラの植物図鑑を取り寄せてもらうようお願いする。セイがテンユウが状態異常回復用のポーションに詳しかったことを話すと、フランツとオスカーは、セイがモルゲンハーフェンで出ったセイランが優秀な薬師を探していること、セイランの雇い主であるザイデラの商会の後ろ盾がテンユウであることを話す。3人は、薬師を探しているのはテンユウだという結論に至る。
セイは、テンユウの目的を探るため、研究所で上級の状態異常回復用のポーションを調べ始めたことを装い、王宮の図書室から持ってきた本を広げると、テンユウは食いつき、スランタニア王国で作られる上級の状態異常回復用のポーションのレシピはこれで全てなのかと尋ねる。どういう物を探しているのかとセイが少し踏み込んで尋ねると、テンユウは言葉を濁す。セイは、いっそ症状関係なく治せる万能薬のようなポーションがあればいいのに、と軽口を叩くと、テンユウは、本当にそんなポーションがあればいい、と目を細める。
細部にはアレンジが加えられていますが、本章は、テレビアニメ第2期のEpisode 5「目的」の前半から中盤部分におおむね対応しています。
第四幕 状態異常回復用のポーション
その後も上級の状態異常回復用のポーションについて調べるセイは、試しに頭痛用のポーションを作ってみるが、研究員たちに使ってもらうと、一部に効果が現われない人もいた。セイは、仮にテンユウの目的が上級の状態異常回復用のポーションの入手だとして、ポーションの入手だけでは終わらないだろうと考え、気が重くなる。
しばらくして、セイが薬草畑で水やりをしていると、久しぶりにテンユウが姿を見せる。テンユウは、小声で、徐々に体力が衰えて手足など体が動かせなくなる病の治療法はあるのかと尋ね、テンユウと話すのは楽しいと感じていたセイは、意を決して、探してみましょう、と申し出る。
セイは、所長にそれを打ち明け、まずその病気について調べ始めるが、思わしい成果は出ない。2週間が経ち、再びやって来たテンユウにそれを伝えると、テンユウは、もうあまり時間は残されていないかもしれないと言い、その病気にかかっているのが自分の母親であることを打ち明ける。それを聞いたセイは、症状に差異があっても問題のないポーションを作ろうと心に決める。
細部にはアレンジが加えられ、アニメオリジナル要素も追加されていますが、本章は、テレビアニメ第2期のEpisode 5「目的」の終盤部分から、Episode 06「天祐」の前半部分におおむね対応しています。
第五幕 万能薬
セイは、万能薬を開発することを所長に話すと、ヨハンは、もし作れたとしても、そのレシピをテンユウに提供していいかどうかは、自分だけの判断では許可できない、少なくとも宰相の許可が必要だと言う。
万能薬について調べ始めて1ヶ月が経ち、セイが手紙に尋ねたコリンナからの返事には、はっきりした心当たりはないが、効くかもしれないという薬草のことが書かれていた。それは、王都では薬草扱いされていない植物だった。セイは、王都では手に入らない薬草を取り寄せるため、ジュードの協力を得てそれを注文する。
そんなとき、父の領地に帰っていたアルベルトが、林檎の花から採れた蜂蜜をお土産に持ってきてくれる。それを口にしたセイは、蜂蜜は万病に効くと日本で言われていたことを思い出し、蜂蜜で万能薬を作ろうと試してみるが、結果は芳しくない。林檎を組み合わせようと考えたセイは、リンゴの苗木を取り寄せ、【聖女の術】で成長を促し、採れた林檎を使って万能薬のポーションを作る。
林檎を収穫して1ヶ月、ポーションを手に入れたテンユウは、母親の容態が悪化したという表向きの名目で、ザイデラ国に帰っていく。
セイが万能薬のポーションの開発に成功したことを宰相に報告したヨハンは、セイに万能薬の作製はしばらく行わないこと、という国王からの通達を告げたのだった。そして、テンユウの帰国後、セイはヨハンから、国王が作製者を伏せてテンユウに万能薬を譲ったことを聞かされる。セイは、いつかテンユウから結果を聞けるといいな、と思うのだった。
細部にはアレンジが加えられ、アニメオリジナル要素も追加されていますが、本章は、テレビアニメ第2期のEpisode 06「天祐」の後半部分におおむね対応しています。
以上の本編の後に、ショートストーリー集として、9つの短編が収載されています。巻末の初出一覧を見ると、既刊の単行本の店舗別特典などで付けられていた書き下ろし短編を収録したもののようです。
ショートストーリー集
あと一歩
アルベルトとデートする夢を見たセイ。目覚めて、その内容の恥ずかしさに、心の中でうわー!と叫び、ベッドの上をゴロゴロ転がる。
ある雨の日
研究所から王宮に向かう途中に雨に降られたセイは、びしょ濡れになってより近い第三騎士団の隊舎の軒下に駆け込むと、たまたま顔を出したアルベルトが中に案内するが、微妙な雰囲気になってしまう。
秋の味覚の奪い合い
セイが研究室の厨房に行くと、豊作だった栗が大量に積まれていた。セイが料理人の協力を得て栗ペーストや甘露煮などを作ると、やってきたヨハンとジュードで争奪戦になる。
薔薇が咲く庭にて
アルベルトに誘われ、一緒に馬に乗って王宮の庭に行ったセイ。アルベルトが白い薔薇をセイの耳の上に差し、よく似合う、と声を掛けると、照れたセイは頬に熱が上がる。
薔薇の使い道
セイ宛てに王宮から大量の薔薇が届く。セイはリズとアイラとのお茶会のために薔薇のジャムを作ろうと厨房に足を向ける。
薔薇の季節の女子会
リズとアイラとのお茶会で、セイは薔薇のジャムだけでなく薔薇のオイルを用意していた。オイルの効果に驚くリズたちだったが、その貴重さを聞いて、ジャムにも効果はないのかと話が盛り上がる。
異世界の冬 1
寒い冬の日、所長室でお茶を飲むセイは、ヨハンからこの辺ではあまり雪が降らないと聞き、こちらの世界で雪を見ていないことに気付き、窓の外に目を向けると、雪が降り始めていた。それを見たセイは、積もるのかな、と内心ウキウキする。
異世界の冬 2
翌日、セイが目を覚ますと、外にはうっすらと雪が積もっていた。セイが外に出て雪を触っていると、ヨハンを訪ねてアルベルトがやってくる。セイはお茶でも飲んで温まってもらおうと誘い、ウキウキしながら研究所の中に戻るのだった。
隠したい気持ち
バレンタインデーで、セイはアルベルトに、ブラウニーとともに、千日紅を刺繍したハンカチを、その花言葉に気付いてほしくないと思いながら渡す。喜ぶアルベルトの様子を見て、セイは嬉しさから頬が緩む。
(ここまで)
以上のとおり、この第6巻が、テレビアニメの第2期でテンユウとのエピソードを描いた第4話から第6話までに当たる部分となっています。
この続きはまた改めて紹介しようと思います。