鷺の停車場

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高山一実「トラペジウム」

高山一実「トラペジウム」を読みました。

乃木坂46のメンバーである著者が、雑誌「ダ・ヴィンチ」2016年5月号から2018年9月号まで連載した小説で、2018年11月に単行本として刊行され、2020年4月に文庫本化されています。

先日、本書を原作にアニメ映画化された「トラペジウム」をスクリーンで観たので、原作も読んでみようと思い、手に取ってみました。

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背表紙には、次のような紹介文が掲載されています。 

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高校1年生の東〔あずま〕ゆうは「絶対にアイドルになる」ため、己に4箇条を課して高校生活を送っていた。「SNSはやらない」「学校では目立たない」「彼氏は作らない」「東西南北の美少女を仲間にする」……? 努力の末、”輝く星たち”を仲間にした東が、高校生活をかけて追いかけた夢の結末とは。人気アイドルグループ・乃木坂46から初の小説家デビュー作。現役トップアイドルが、アイドルを目指すある女の子の10年間を描いた感動の青春小説。

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主な登場人物は、次のとおりです。

  • 東 ゆう:主人公。城州東高校の1年生。アイドルになる夢を抱いている。

  • 華鳥 蘭子:聖南テネタリス高校の2年生。テニス部に所属。

  • 大河 くるみ:西テクノ工業高等専門学校の2年生。ロボット研究会に所属。

  • 亀井 美嘉:城州北高校の1年生。子どもたちを勉強を教えるボランティア活動に参加している。

  • 工藤 真司:西テクノ工業高等専門学校の5年生。写真好き。

  • アッコ:城州東高校でゆうのクラスメイト。情報通。

  • ミッツー:ゆうが保育園の頃から付き合いのある友人。城州東高校では隣のクラス。

  • 馬場:塾に通えない子どもたちに勉強を教えるボランティア団体「にこきっず」のトップ。

  • サチ:ボランティア活動で出会った車椅子に乗った女の子。

  • 伊丹:城州の翁琉城でガイドボランティアをしている老人。

  • 古賀:テレビ番組の制作会社・エルミックスのアシスタントディレクター。

  • 遠藤:ゆうが所属することになった芸能事務所「マルサクト」の社長。

 

 

本編は、Ch.1~Ch.9の9章とエピローグで構成されています。

各章の概要・主なあらすじは、次のようなもの。

Ch.1 南の星 ~縦ロールの女~

*1*

計画の1日目、ゆうは放課後に私立お嬢様学校の聖南テネタリス女学院に向かい、不審者と怪しまれながら校内に入る。

*2*

テニス部の偵察と勘違いされ、縦巻きロールヘアの美少女・華鳥蘭子を相手にテニスの試合をさせられることになり、ストレート負けしたゆうだったが、それがきっかけで華鳥と友達になることに成功し、携帯電話に「南」という名前で連絡先を登録する。

Ch.2 西の星 ~萌え袖の女~

*1*

次のターゲット、西テクノ工業高等専門画工に向かったゆう。自転車置き場で男子に声をかけ、ロボット研究会の活動場所に連れていってもらう途中、濁った水が張られたプールサイドで大河くるみを見つける。

*2*

くるみは前年に出場したロボットコンテストで、めちゃめちゃかわいいとネットで話題になった女子だった。

*3*

男子の案内でくるみに話しかけるゆうだったが、警戒するくるみは立ち去ってしまい、計画は失敗する。

*4*

案内してくれた男子・シンジのとりなしで、くるみがゆうに会ってくれることになる。

*5*

ゆうはロボット好きを装ってくるみと会う。またくるみと会えるよう、水上競技のロボットを開発するくるみのために自分の学校のプールの使用許可を取ると提案する。

Ch.3 東の星 ~輝きたい女~

*1*

結局、ゆうは華鳥の家の庭のプールを使わせてもらうことで、西テクノ高専を準優勝させ、華鳥とくるみをくっつけることに成功する。

*2*

ロボコン当日、本格的なカメラを持っていたシンジにくるみの写真を大量に撮ってもらったゆうは、写真のデータをもらうため、城州の東西南北から1人ずつ集めてアイドルグループを作るという自分の計画を打ち明ける。

*3*

年が明け、華鳥、くるみとでかけたゆうは、本屋で小学校の時同じクラスだった亀井美嘉に声をかけられる。しかし、ゆうの記憶にある美嘉と目の前の美嘉は全く一致しないのだった。

Ch.4 北の星 ~善を為す女~

*1*

学校でゆうは、隣のクラスのミッツーに美嘉のことを聞いてみる。

*2*

帰宅して美嘉について考えるゆうは、美嘉の顔が整形手術などで完全に作られたものだという結論に至る。そんなとき、くるみから駅でばったり会った美嘉とお茶した、とメッセージが入る。

*3*

翌日、くるみ、美嘉と会ったゆうは、美嘉からボランティア活動に誘われる。

*4*

馬場の家で子どもに勉強を教えたゆうは、トイレのドアに貼ってあった会報に興味を持ったのがきっかけで、翌月にある春の登山に参加することになる。

Ch.5 同じ星 ~車イスの少女~

*1*

茶店でシンジと会ったゆうは、ボランティア団体「にこきっず」のブログに4人全員で乗る計画を話し、シンジに拡散を依頼する。

*2*

春休みに入り、「にこきっず」のイベントを翌日に控えた夕方、華鳥から翌日の服装について尋ねるメッセージが入る。

*3*

登山イベントに参加したゆうだったが、4人で同じ班になることができず、落胆する。

*4*

山頂にたどり着いたゆうに全く満足感はなかったが、昼食で4人一緒になり、くるみと華鳥の話を聞いて安堵する。

*5*

イベントを終え、ゆうは、東西南北が揃った時間はわずかだったが、状況が確実に好転したことに達成感を感じる。

Ch.6 共謀者 ~ラクダ色カメラマン~

*1*

くるみに誘われ、ゆうは華鳥、美嘉とともに西テクノ高専の工業祭に行く。

*2*

ゆうはチラシをもらった体育館でのバンド演奏に3人を誘うが、くるみは自分の誘いでやってきたサチを案内するために出て行き、華鳥と美嘉もそれに続いて、体育館にはゆう1人が残される。

*3*

バンド演奏が終わった後、ゆうは美嘉たちと合流し、サチが興味を持ったコスプレ写真館に入る。写真を撮ろうとしたところでカメラが故障してしまい、くるみが呼んだシンジが代わりに写真を撮る。

*4*

茶店でシンジと会ったゆうは、観光スポットの翁琉城がテレビ番組で取り上げられることを知って案内ボランティアをすることにしたことを明かす。

Ch.7 好敵手 ~マルチリンガル老人~

*1*

それから1週間後、ゆうは城案内のボランティアに初めて参加する。

*2*

ゆうは、スペイン人の女子学生をスペイン語で案内する伊丹に付いて、城を回る。

*3*

終了後、休憩に入った喫茶店で伊丹から城案内のマニュアルなと受け取ったゆうは、シンジから自分もボランティアに参加したいという提案を受け入れることにする。

*4*

伊丹から来てほしいと連絡が入り、4人で城に向かうと、テレビ番組のADの古賀が来ていた。伊丹やゆうが説明するが、取材に拒否感を示したくるみは、撮影当日に姿を現さなかった。

*5*

番組が放送されてから、ゆうが城に行くことはなくなり、4人で集まる頻度も少なくなっていたが、登校するゆうの前に古賀がお願いがあると姿を現す。

Ch.8 救い主 ~毒キノコAD~

*1*

それを聞いたゆうは、3人を呼んでフードコートに集まる。古賀のお願いとは、深夜バラエティ番組で各地のフェスを取材するコーナーに東西南北として出るというものだった。

*2*

3人の同意も得て出演が始まり、お試しだったコーナーはレギュラー化が決まる。ゆうは古賀の紹介で芸能事務所の遠藤に会う。

*3*

数ヶ月ぶりに喫茶店でシンジと会ったゆう。どうしてオーディションを受けてアイドルになろうとしなかったのか尋ねられるが、全部落ちていたゆうは、その答えをはぐらかすのだった。

Ch.9 方位自身

*1*

初めてのスタジオ収録に臨んだ東西南北の4人は、番組のエンディング曲を歌うことになったことを聞かされ、コーナーの企画はアイドル成長ヒストリーへと変わっていく。

*2*

事務所に所属することになった4人だったが、美嘉の交際の発覚などで溝が深まり、くるみがアイドル活動に耐えられなくなったことで、終わりを迎える。

*3*

ゆう以外の3人に契約解除が告げられ、抜け殻のようになっていたゆうだったが、美嘉に会いに行き、昔の自分について話を聞かせてもらう。美嘉は、ゆうのファン1号だったと話す。

*4*

なじみの喫茶店で3人と再会したゆうは、3人に謝り、4人は和解する。アイドルを諦められないゆうは、アイドルグループのオーディションに履歴書を送っていた。

エピローグ

アイドルとなっていたゆう。8年ぶりにシンジから電話がかかってきて、取材を終えたゆうは、くるみ、華鳥、美嘉と待ち合わせて、プロの写真家になったシンジの写真展に足を運び、旧交を温める。写真展の会場を順路に沿って進んでいくと、一番最後に、西テクノ高専の工業祭で撮った写真が大きく飾られていた。当時の記憶が一瞬にして蘇ったゆうは、当時の私に向けて、ありがとうと思うのだった。

(ここまで)

 

劇場アニメでは、4人がテレビに出るようになってからの部分も、けっこうなウェイトを占めていましたが、本書では、「Ch.8 救い主 ~毒キノコAD~」の「*2*」から「Ch.9 方位自身」の「*2*」まで、ページ数でいうと、全体の1割ちょっとに過ぎず、東西南北の星を集めてアイドルになる計画を実現させようとする主人公の姿を中心に描かれています。その後の展開への伏線として、他の登場人物の目線からの描写も一部ありますが、基本的には主人公の一人称で語られていることもあって、他の3人の心情は表層が描かれるのにとどまっているので、劇場アニメを観た時と比べると、心に刺さるインパクトは少なかったように思いました。