去る9月6日(土)、指揮者のクリストフ・フォン・ドホナーニ(1935年~)に95歳で亡くなっていたことを、1か月半くらい経ってから初めて知りました。
ハンガリーの高名な作曲家・ピアニストのエルンスト・フォン・ドホナーニを祖父にもつドホナーニは、1929年9月28日、ドイツ・ベルリンで生まれ、ミュンヘン大学で法律を学んだ後、音楽の道に転じ、フランクフルト歌劇場の助手などを経て、1957~1963年にリューベック歌劇場音楽総監督、1963~1966年にカッセル州立劇場音楽総監督、1964~1969年にケルン放送交響楽団(現:ケルンWDR交響楽団)首席指揮者、1968~1977年にフランクフルト歌劇場音楽総監督、1977年~1984年にハンブルク州立歌劇場音楽総監督と要職を歴任した後、1984~2002年にクリーヴランド管弦楽団の音楽監督を務め、この期間中、同管弦楽団とDECCA(旧・LONDONレーベル)を中心に数多くの録音を行っています。その後も、1997~2008年にフィルハーモニア管弦楽団首席指揮者、2004~2011年に北ドイツ放送交響楽団(現:NDRエルプフィルハーモニー管弦楽団)首席指揮者を務めています。
主情的な表現を排した客観的で知的なアプローチ、作品の構造を明らかにするような精密な音楽、透明で引き締まった響き、などとよく評されたドホナーニの録音は、華やかさ、重厚な響きといった面は少なめなこともあり、一般に広く支持されるタイプの音楽とはやや異なる特徴的な演奏が多かったと思いますが、私自身は、精緻で透明感のある響き、端正な音楽の運び、といったところが気に入ったのだと思いますが、ドホナーニとクリーヴランド管弦楽団のコンビがけっこう好きだったので、いろいろとCDを買っていました。なお、同コンビの録音は、DECCAが中心でしたが、TELARCレーベルにベートーヴェンの交響曲全集など、TELDECレーベルにもブラームスの交響曲全集などを録音しています。
今やそのほとんどは廃盤となってしまっていますが、個人的に印象深いCDをいくつか、おおむね録音順に紹介したいと思います。

クリストフ・フォン・ドホナーニ指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(録音:1979年10月、ウィーン、ゾフィエンザール)
デジタル最初期の録音。まだCDが1枚3,500円だった時代、ドホナーニの指揮による録音で、私が初めて買ったCD。なお、ドホナーニは、本盤に先立つ1977年に、同じウィーン・フィルと、ストラヴィンスキー:ペトルーシュカ、バルトーク:中国の不思議な役人を録音しています。
本盤は、だいぶ前になりますが、このブログを書き始めたばかりの時期に紹介していました。
買った当時は、ふくよかで奥行きを感じさせる響き、端正な音楽の運びが気に入ってよく聴いていました。今となっては、演奏の正確さ、アンサンブルの緻密さなどの点で、より優れた録音は数多くありますが、改めて聴き直しても、私自身は捨てがたい魅力を感じます。

クリストフ・フォン・ドホナーニ指揮クリーヴランド管弦楽団
(録音:1984年10月、クリーヴランド、マソニック・オーディトリアム)
DECCAでのドホナーニとクリーヴランド管弦楽団のコンビの最初のアルバムとなったもの。最初の発売時は、交響曲第9番は1曲のみで、交響曲第8番はドヴォルザーク:スケルツォ・カプリチオーソ(op.66)とのカップリングで、それぞれ1枚のディスクで発売されていたと思います。なお、翌年の1985年には交響曲第7番も録音しています。
このコンビによる最初期の録音のためか、後年の録音にみられるような、キレのある鮮やかな響き、という要素は控えめで、情感も感じさせながら、引き締まった響き、端正な音楽運びが魅力的な演奏で、個人的には、これらの曲のベスト盤になっています。

- ベートーヴェン:交響曲第1番 ハ長調 op.21
- ベートーヴェン:交響曲第2番 ニ長調 op.36
- ベートーヴェン:レオノーレ序曲第3番 op.72a
- ベートーヴェン:交響曲第3番 変ホ長調 op.55「英雄」
- ベートーヴェン:交響曲第8番 ヘ長調 op.93
- ベートーヴェン:交響曲第4番 変ロ長調 op.60
- ベートーヴェン:交響曲第5番 ハ短調 op.67「運命」
- ベートーヴェン:交響曲第6番 ヘ長調 op.68「田園」
- ベートーヴェン:交響曲第7番 イ長調 op.92
- ベートーヴェン:交響曲第9番 ニ短調 op.125「合唱付」
クリストフ・フォン・ドホナーニ指揮クリーヴランド管弦楽団
[10のみ]キャロル・ヴェイエス[S]、ジャニス・テイラー[Ms]、ジークフリート・イェルザレム[T]、ロバート・ロイド[Bs]、クリーブランド合唱団[合唱指揮:ロバート・ペイジ]
(録音:1983年10月22~23日[5]・1983年10月23日[4]・1985年10月18~19日[10]・1986年12月15日[3,8]・1987年9月20日[7,9]・1988年10月8日[1]・1988年10月9日[6]・1988年12月11日[2]、クリーヴランド、セヴェランス・ホール[3,4,5,8] マソニック・オーディトリアム[1,2,6,7,9,10])
1983年から1988年にかけてTELARCレーベルに録音されたベートーヴェンの交響曲全集。1983年10月に録音された交響曲第3番・第8番は、このコンビによる最初の録音なのではないか思われます。
実は、私もCDは持っておらず、その昔、買おうかどうかしばらく迷っているうちに廃盤となってしまい入手困難となっていたもの。最近になって、とある音楽配信のサブスクに入ったら、本盤も聴けるようになっていたので、何曲か聴いてみたら、予想以上に優れた演奏で驚きました。1980年代、カラヤンに代表されるような、伝統的な色合いを残した重厚な演奏が主流だった時代に、それと一線を画するようなシャープな演奏で、時代を先取りしていたとも思える現代の演奏に通ずる要素が感じられる演奏になっています。

クリストフ・フォン・ドホナーニ指揮クリーヴランド管弦楽団
(録音:1987年5月、クリーヴランド、マソニック・オーディトリアム)
こちらは、1986~1988年にかけてTELDECレーベルに録音されたブラームス・交響曲全集の1枚。透明感のある響き、隙のないアンサンブルで繰り広げられる端正な音楽が印象的な演奏です。なお、本盤では、DECCAレーベルの録音のような、キレのある鮮やかな響きはありませんが、こちらの方が、コンサートホールで生の演奏を聴いた印象に近いのだろうと思います。

クリストフ・フォン・ドホナーニ指揮クリーヴランド管弦楽団
(録音:1987年11月[1]・1988年2月[2]、クリーヴランド、マソニック・オーディトリアム)

クリストフ・フォン・ドホナーニ指揮クリーヴランド管弦楽団
(録音:1987年11月[1]・1988年2月[2]、クリーヴランド、マソニック・オーディトリアム)
クリーヴランド管とのコンビによるシューマンの交響曲全集。オーケストレーションが厚いシューマンのスコアを、クリーヴランド管の高い能力をいかんなく生かした精緻で引き締まったアンサンブルで、瑞々しく透明感のある響きの音にしており、細部まで見通したようなバランスの良さが光る優れた演奏。シューマンの交響曲の他の録音はあまり聴いていないのですが、これを超えるような名盤はそうそうないのでは?

クリストフ・フォン・ドホナーニ指揮クリーヴランド管弦楽団
(録音:1988年8月[1]・1989年5月[2]、クリーヴランド、マソニック・オーディトリアム)
本盤も、このブログで紹介したことがありました。
シャープな録音もあいまって、精緻な響きでオケの技量が冴えわたる演奏になっています。バルトークと同タイトルのルトスワフスキの「管弦楽のための協奏曲」がカップリングされているのは珍しいですが、こちらも十分聴きごたえのある曲です。

クリストフ・フォン・ドホナーニ指揮クリーヴランド管弦楽団
(録音:1989年3月13日[1]・10月30日[2]、クリーヴランド、マソニック・オーディトリアム)
先に紹介した1984年録音の第8番・第9番、1985年録音の第7番に続く同コンビのドヴォルザークの交響曲の録音。
ドヴォルザークの交響曲は、後期の第7番~第9番は多くの録音がありますが、第6番となると、チェコのオーケストラや指揮者など、いわゆるお国ものの演奏以外には、かなり少ないだろうと思います。ヤナーチェクも、「シンフォニエッタ」は数多くの録音がありますが、この「タラス・ブーリバ」となると、やはりお国もの以外の録音はあまりありません。そうした2曲を、機能性に優れたアメリカのオーケストラが演奏した録音というのも魅力の1つですが、シャープで精緻なドホナーニらしい演奏ながら、決して無機的ではなく、情感もしっかり感じられる優れた演奏です。

クリストフ・フォン・ドホナーニ指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(録音:1989年12月18~21日、ウィーン、ムジークフェラインザール)
ドホナーニ指揮によるリヒャルト・シュトラウスの録音としては、本盤のほか、ウィーン・フィルとのブルレスケ(1977年11月)や楽劇「サロメ」(1994年4月)、クリーヴランド管との「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」(1991年8月)、「英雄の生涯」(1992年1月)があります。なお、本盤は、音楽之友社の1992年度レコード・アカデミー賞(管弦楽曲部門)を受賞しています。
ドホナーニの知的で緻密なバランス感覚と、優美な弦楽器の音をはじめウィーン・フィルの特質がともに発揮された優れた演奏。前述のように、クリーヴランド管との「英雄の生涯」と「ティル」の録音などはありますが、「ツァラトゥストラはかく語りき」など、その他のリヒャルト・シュトラウス作品も聴いてみたかった気がします。

クリストフ・フォン・ドホナーニ指揮クリーヴランド管弦楽団
(録音:1990年2月12日[1]・8月21日[2]、クリーヴランド、セヴェランス・ホール[2] マソニック・オーディトリアム[1])
ドホナーニ唯一のショスタコーヴィチの録音。全体に引き締まった造形の完成度の高い演奏。重量感はやや乏しいので、圧倒的な迫力を期待する人には物足りないかもしれませんが、透明感のある響き、スコアを細部まで見通したようなバランスの良さ、虚飾を廃した端正な表現、隙のないアンサンブル、クリアさが際立つパーカッションなど、独特の魅力が感じられる演奏で、個人的にはこの曲で最も好きな演奏の1つです。カップリングのルトスワフスキ「葬送音楽」も優れた演奏です。

- モーツァルト:交響曲第35番 ニ長調 K.385「ハフナー」
- モーツァルト:交響曲第36番 ハ長調 K.425「リンツ」
- ヴェーベルン:パッサカリア op.1
- ヴェーベルン:6つの小品 op.6a
- モーツァルト:交響曲第38番 ニ長調 K.504「プラハ」
- モーツァルト:交響曲第39番 変ホ長調 K.543
- ヴェーベルン:5つの小品 op.13
- ヴェーベルン:交響曲 op.21
- モーツァルト:交響曲第40番 ト短調 K.550
- モーツァルト:交響曲第41番 ハ長調 K.551「ジュピター」
- ヴェーベルン:変奏曲 op.30
クリストフ・フォン・ドホナーニ指揮クリーヴランド管弦楽団
(録音:1990年2月[5,9,10]・1990年10~11月[1,2,6]・1991年3月[8]・1991年10月[7,11]・1992年1月[3]・1992年3月[4]、クリーヴランド、セヴェランス・ホール[1,2,3,4,6,7,8,11] マソニック・オーディトリアム[5,9,10])
モーツアルト後期交響曲集の各CDの残り時間部分にヴェーベルンの管弦楽曲集をカップリングした3枚組のCD。アメリカのオーケストラによるモーツァルトの交響曲の録音は意外と珍しいです。響きの美感といった点では、ウィーン・フィルなどヨーロッパの伝統あるオーケストラに劣りますが、整ったアンサンブル、端正な響きは魅力的です。

クリストフ・フォン・ドホナーニ指揮クリーヴランド管弦楽団
(録音:1991年1月20・21日、クリーヴランド、セヴェランス・ホール)
このコンビのブルックナーの交響曲の録音は、1988年の第9番を皮切りに、1989年に第4番、1990年に第7番、1991年にこの第5番と第6番、1993年に第3番、1994年に第8番が録音されています。
要所で殊更に溜めたりすることなく、比較的速めのテンポで進んでいきますし、ドイツ系のオケのような響きの厚みはないので、万人受けはしないと思いますが、アンサンブルの精度は高く、スコアをすべて見通したような知的で分析的な印象を受ける演奏です。このコンビのブルックナーの録音は、第3番以外はCDかサブスクで聴いていますが、この第5番が個人的には一番好きです。

クリストフ・フォン・ドホナーニ指揮クリーヴランド管弦楽団
(録音:1991年5月20日[1]・1月21日[2]・8月18日[3]、クリーヴランド、セヴェランス・ホール)
このコンビのマーラーの交響曲の録音は、1988年の第5番を皮切りに、1989年に第1番、1991年にこの第6番、1992年に第4番、1997年に第9番が録音されています。
本盤は、音楽之友社の1993年度レコード・アカデミー賞(交響曲部門)を受賞しています。ちなみに、ドホナーニ指揮のディスクでレコード・アカデミー賞を受賞したのは、前述のリヒャルト・シュトラウスの録音と本盤の2つだけなので、クリーヴランド管とのコンビではこれが唯一の受賞盤となっています。
こちらも、上記のブルックナーと同じく、ドイツ系のオケのような響きの厚みはありませんが、スコアをすべて見通したような解像度の高さと透明感のある響き、高いアンサンブルの精度とバランスの良さを感じさせる完成度の高い優れた演奏です。カップリングのシェーベルク、ヴェーベルンの2曲も魅力的です。
最初にも書いたとおり、これらのCDは、今はいずれも入手困難になっているようですが、DECCAレーベルへの録音については、クリーヴランド管弦楽団との録音、ウィーン・フィルなどヨーロッパのオケへの録音のそれぞれについて、全て(たぶん)の録音を集成したCDボックスが最近になって発売されているので、こちらの方が入手しやすいだろうと思います。
謹んでご冥福をお祈りいたします。

